題詠百首「百人一首」あとの祭

百人一首「あとの祭」


 昨日11月3日(文化の日)のブログに、「題詠百首・百人一首」を載せた。結構苦労もしたが、楽しい作業でもあった。皆様へのお詫びや釈明などは、その前日2日のブログに書いているので、御参照頂きたい。今日は、選定の終わったところでの感想や釈明などを書くことにしたい。
  
 出来上がったものを眺めて最初に抱いた感想は、この題詠百首のレベルの高さである。選定の適・不適は別として、こうして眺めてみると、いずれも高いレベルの作品であり、しかも当然のことながらそれぞれの人の持ち味が出ており、どこに出しても恥ずかしくない作品集だという気がしている。その感想を持てることが、百人一首作成の最大の喜びと言って良いのかも知れない。

 
 作成の過程について、少し補足的な御説明をしておこう。百人一首の前提として、選歌集を70回にわたってブログに掲載した。まずその結果から御報告しよう。選歌集に掲載した作品数は、70回合わせて2,826首である。そのうち完走された方の作品は2,370首であり、この2,370首を百人一首の選歌の対象とした。(なお、このほかに私の作品も潜り込ませて頂いた。)
 2,370首を、題別に見ると、次のような結果になっている。<39>カフェ  <38>嘘、硝子 <37>匂 <35>あくび <32>告白、題 <32>寂、花びら、くちびる <29>曲線、ふたり、銀、刺 <28>風、雨、朗読、器 <27>灯、打、富、流行 <26>キッチン、刻、スカート、結、シャンプー、しずく、韓、水晶、メイド、砂糖 <25>手紙、とんぼ、垂、鍵、萌、世紀、無理 <24>椅子、草、こだま、凍、とおせんぼ、章、箱、針、整 <23>指、揺、からっぽ、秘密、せせらぎ、ブログ、虫、響、拝 <22>噛、美、組、道、コピー、戦争、舞、頬、予想、芽、落 <21>並、竹、報、テレビ <20>自転車、桜、牛乳、上海、乙女、事務、老人、トランプ、誤 <19>親、クリーム、レントゲン、おたく、株、鳴、滑 <18>アイドル、鏡、百合 <17>豆、飛、辞書、抵抗 <16>医 <15>信号、政治、オペラ <13>注射
 

 こうして見ると、大体題のむずかしさの度合いに見合っているような気もするが、「カフェ」が最高だったのは、ちょっと意外だった。私にとってはかなり難航した題だったのだが、考えてみれば、私にとっての「カフェ」というのは、大正から昭和初期にかけての古いイメージである。(もちろん、その時代を直接知っているわけではないが。)しかし、若い方から御覧になれば、現実に馴染んでいる新しいイメージの「カフェ」であり、御自身も利用しておられる身近な存在なのだろうと思う。この辺に世代の違いということもあるのだろうか。
 「嘘」が多いのは予想通りだった。以前いつかの選歌集の際、「歌人には嘘が似合うのか」とからかい半分に書いた記憶があるのだが、歌の素材にしやすいテーマなのかも知れない。他方、一番少なかったのが「注射」だった。そのことに気付かないままに、補欠選手の積りで用意していた私の作品を「注射」に充てたのだが、結果的には正解だったのかなとも思っている。


 先日も書いたように、選歌集自体全くの私の独断と気紛れの産物なのだが、それを母体とした「百人一首」も、その点では同様である。ただ、なるべくそれぞれの題のベストクラスのものを、またそれぞれの作者のベストクラスのものを選びたいと思い、それなりに苦労もし、私の物差しからすればそこそこの選定はできたと思ってはいるのだが、果たして如何なものか。選ばれなかった方にとってはもとより、選ばれた方にも「自分のベストはこれではない」という御不満は残ると思うが、題と作者のマトリックスという難題に免じて、その点はお許し頂きたい。(なお、ここで「ベスト」という言い方をしたが、当然のことながら、私のその時点での好みから見た「ベスト」という意味でしかないということをお断りしておきたい。)


 マトリックスにつき、少し補足しよう。例えば1番の「風」で、ある方の作品がベストだと思って選定したとする。その結果、その方が「権利落ち」になるのは当然だが、ほかの方の「風」も当然脱落する。言い換えれば「風」でAさんの作品を選ぶか、Bさんの作品を選ぶかで、「百人一首」は全く違う様相を呈して来る。なるべくそうならないように、候補作の多い題と候補作の多い作者は後回しにし、選びやすい題から選んで、順次絞り込んで行ったのだが、それでも、同じ私の物差しで選んでも、違う選択肢は十分あり得る話ではある。
 一応出来上がった後で、入れなかった作品を見渡してみて、「これは是非入れたいな」と思うものも沢山あるのだが、それを入れると、既に入れたその方の作品を落とすことは当然として、その題のほかの方の作品も落とさなければならない。その種の玉突き状態を繰り返していると収拾つかなくなり、仮に何とかなったとしてもどこかに無理が出て、全体として見れば、当初のものより出来の悪い結果になる可能性も大きい。したがって、そのようなフィードバックをしなくても済むように、当初からかなり神経を使いつつ選定して行ったのだが、それにしても素晴らしい「玉」が漏れているケースも結構ある。最後は、目をつぶって妥協せざるを得なかったという点はお許し頂きたい。
 

 なお、選定の対象としたのは、先日も書いたように、百題完走して完走報告された方の作品に限定した。また、選歌集に10首以上選ばせて頂いた92名(50首以上:4名、40首以上:3名、30首以上:11名、20首以上:26名、15首以上:25名、10首以上:24名)の方の作品は、できれば全員選定したいという気持で作業を進めたのだが、さほど無理なくそのような結果になった。
 

 選定の準備段階として、選歌集を纏める都度、その作品をパソコンの「エクセル」に入れて整理していたのだが、これは最終段階の労力をかなり省いてくれた。去年は普通の「ワード」で整理していたので、最終段階でかなり無駄な作業も必要になったが、今回は少し智恵が付いて「エクセル」にしたため、題や作者別に整理し直し、見直すのが、随分楽になった。


 以上、甚だ勝手な百人一首であり、独りよがりの感想だが、皆様に多少なりとも御評価頂ければ、まことにありがたいことである。また来年お目にかかれることを楽しみにしている。


注:後の祭り(インターネットの「大辞林」より)
[1] 祭りの翌日、供え物を下げて飲食すること。後宴。[2]〔補説〕 祭りのすんだあとの山車(だし)の意から、時機を逸して甲斐のないこと。手遅れ。悔やんでも「後の祭り」だ