初夢・古希

 「初夢」というのは、1月2日の夜見る夢のことだとずっと思い込んでおり、「なぜ1日でなく2日なんだろう」と疑問に感じながら、これまで辞書を引いてみる気にすらならなかったのだが、念のためにさっき辞書を引いてみたら、「その年最初に見る夢。普通元日の夜又は2日の夜見る夢」とある。昔は、「節分の夜に見る夢」という意味もあったらしい。
 おそらく多くの人は、私同様2日の夜に見る夢だと思い込んでいるのではあるまいか。「なぜ1日の夜でなく2日の夜なのか」というのが、こどもの頃からの疑問だったのだが、その疑問は、この歳になって一応解決したわけだ。しかし、それにしても、なぜ「1日又は2日」なのだろうか。「初夢」というからには、「1日の夜」の夢だけで十分だという気がするのだが、あるいは、1日に夢を見なかった場合に、2日の夜に延長戦があるということなのだろうか。枕の下に宝船の絵を敷いて寝るのは、たしか2日の夜のしきたりだと聞いたような気がするが、これとはどういう関係になるのだろう。
 更に考えれば、大晦日に夜更かしをして、年が明けてから寝た場合には、これこそ「初夢」のような気もするのだが、どうもこれは「初夢」とは呼ばないらしい。前の年の残滓を引きずっての夢だからということなのだろうか。あるいは、昔はそんなに夜更かしする人はいなかったということなのだろうか。いずれにしても疑問が残らないわけではない。
 
 私は、この正月で数え年71歳、10月に誕生日が来れば、満70歳になる。ところで、私が「古希」を迎えるのは、一体いつなのだろう。伝統的な年齢は数え年が主流だったわけだから、去年の正月に古希を迎えたと言って良いのだと思うのだが、世間一般の理解は、必ずしもそうではないようだ。去年、今年に貰った年賀状を見ると、満70歳を古希と理解している人が多い。そう言えば、去年の秋開かれた中学の同期会は「古希記念」と称していたし、今年秋開かれる高校の同期会も「古希記念」と称しており、中学が数え年派、高校が満年齢派ということになる。
 これまた、あらためて辞書を引いてみたら、「数え年70歳」とはっきり書いてある。そうなると、私は、去年の正月に古希を迎えたということになり、これが正解なのだと思うが、そうは理解していない人の方が多いようで、話が食い違うことが出て来そうだ。喜寿や米寿も同様に数え年の正月が正解のようだが、「還暦」だけは、「暦が還る」のだから、「満」でないとおかしくなる。この場合、「満60歳の誕生日」が還暦なのか、それとも誕生日にならなくても「暦は還っている」わけだから、「その年の正月で還暦」なのか、意味からすれば「正月」が正解なのだと思うが、辞書にもそこまでは出ていなかった。
 
 この手の単純な話でも、古希を迎える年齢になっても知らないままに放置していることが結構あることに驚くし、辞書を引くという単純な作業で案外簡単に答が見付かるということにも、あらためて感じ入っているところだ。