題詠百首・選歌集その1

昨年、一昨年に続き、選歌をはじめます。一昨年以降何度かお詫びや弁解を致しましたように、これは私個人の全く無責任かつ勝手気ままな選歌であり、また、何分多くの作品を対象とした刹那的な選歌ですから、私の物差し自体も「伸び縮み」している可能性があります。現に、今日の部も、もう少し数を絞る積りだったのですが、いったん候補作を挙げてしまうと、いまさら落とすのも気が進まず、少し甘い(?)物差しになっているような気もします。次回以降は、物差しが少し変わって来るのかも知れません。
 このイベント終了後、「選歌集」に載せた歌を素材にして、例年通り「題詠百首百人一首」を作る積りにもしております。いずれにせよ「神を恐れぬ所業」だということは承知しておりますが、私の遊びごころに免じてお許し頂きたいと存じます。
 選歌の一般的な方針としては、作品が25以上貯まった題から選歌し、それが10題貯まったらブログに載せるということを原則にする積りですが、最初と最後はそれでは窮屈過ぎるので、今回は、早速その原則を破っております。なお、題の後に書いてあります番号は、会場サイトの「トラックバックの件数」によっております。誤投稿や二重投稿もありますから、厳密な意味での作品数とは多少の違いがある場合が多いと思います。
 私自身のことを申しますと、55年強という作歌歴だけが取り得の無所属・無手勝流の歌詠みです。私の歌歴や短歌観につきましては、一昨年(平成17年)8月22日、同じく短歌観につきましては同年5月6日のこのブログに、雑文を書いております。なお、皆様の作品を拝見してしまうと、私の歌もそれに引きずられてしまう惧れもないわけではないので、私自身の作品は、既に最後まで一応完成しておりますが、パソコンの操作も億劫なので、投稿はボチボチして行こうかと思っております。そうは申しても根がセッカチで、しかも「老い先短い身(?)」ですから、あと数日で完走してしまうのかも知れません。
 それでは皆様、どうかお元気で10月末までお付合い頂きたいと存じます。
 

選歌集・その1

001:始(1〜91)
(小埜マコト)海原に始まりの陽が昇っても終わりにしたいそんな日もある
(愛観) 使わない消しゴムみたいボク達は始めないから終われない恋
(きじとら猫)朝もやのヘッドランプが近くなる 行先決めず始発待つ朝
(青野ことり) きょうの日を始まりと決め 後悔は過ぎた季節にこごらせておく
(二子石 のぞみ)帰郷する君に別れを告げるため始発のバスを待つ花の下
(髭彦)始むれば半ば終らむ隣国のことわざもいふ<シージャギパニダ>と
(百田きりん)境目に立って夢からほんとうを引き出すための今日が始まる
(ドール)肩を寄せ何も言わずに君と聞く梅の香りに春は始まる
(aruka) 白い夏おさないぼくのさすらいは始発電車の座席にとけた
(船坂圭之介) 有漏の身の朝は気だるく夜は重しまた始まりぬ鬱の病が
(末松さくや) 始業式だった四月へ ゆれるのは記憶ではなく青いカーテン
(本田あや) 始まりを言い出せなくて 本棚の端からあらすじ教わる夜更け
(高辻まゆみ) しどけない君の吐息に孤立する 始動なくした彼のカンパルネラ...
(西巻 真)睡蓮のように始まる土曜日が好きだよ お茶をふたりで飲んで
(堀 はんな) 号砲も足音もなく題詠のマラソン始まる弥生朔日(ついたち)...
(みずすまし)さりとても 年の始めのひともじは希(のぞみ)と決めて硯にむかう
(みずき)爪立ちて春の始めを飾りゐし雛(ひひな)の髪を梳けば青空
(紫峯) === 春草の始めの年に歌競う難波の跡に出でし木簡 ===...
(杉山理紀)開始する春の風景りんかくがあいまいになる夢を出て行く
(宮沢耳) シャアアッとカーテンを引けば一日の始まりの光満ちるリビング
(佐原みつる) この町に今日という日を告げるため始発列車は川を渡って
(百億粒の灰の鳴る空) 産声で始めたばかりの肺呼吸 棄てられている明日は知らない
(萌香)遅咲きの桜のようにゆっくりと開き始めたひそやかな恋
(素人屋) 朝焼けが東の空をあかあかと染めている今朝生理始まる
002:晴(1〜74)
(五十嵐きよみ)スリッパが晴天、雨天をそれぞれに告げて僕らのベッドのそばに
(小埜マコト)街中のネオンを黒く塗り潰し晴れた夜空を君に見せたい
(富田林薫) かたくなに折りたたまれた薄紙を午後の晴れ間にそっとひろげる
(Ja) 晴れた日に息子と歩く公園の芝生に影がよちよち揺れる
(二子石のぞみ)爛漫の樹下に花びら鎮もれば母の晴れ着に袖は通さず
(五七調アトリエ雅亭)ハンモックお昼寝時間木漏れ日が晴れた空から降り注いでる
(愛観) 天気図は曇りのち晴れ 色褪せた昨日の雨の傘は捨てよう
(きじとら猫)「晴眼の君にはきっとわからない」見えぬあなたの瞳が曇る
(ふしょー)ひっそりとひしめいている愛しさと哀しさを聴くある晴れた日に
(はな) 冬の木は晴れ空高く根は土に分け入り深く天と地繋ぐ
(青野ことり) 晴れたならあの道ゆこう そよそよとないしょの話した草の道
(船坂圭之介)若きあり老ゆるありたり晴れの夜の空駆け巡る 歌の集ひは
(西巻 真)かの星に晴眼帝と呼ばれたる翁は在りや 遠き目をして
(あや) 晴天のお日様たっぷり吸い込んだ布団と猫と縁側のわたし
(堀 はんな) 鬱々と下向く胸を晴らさんと見上げた空の春も鈍色...
(ドール) よく晴れた三月の空 変わらざる思いひとつを胸にしまいぬ
(みずき) 晴れ渡る空と時間のさかひ目へ少女はギターつうと立て掛く
(中村成志) 月光が底にまどろむとこぶしを鋼に変えて明後日は晴れ
(ぱぴこ) 晴れきった真夏真夜中むきだしの宇宙を君と引っ掻きに行く
(髭彦) 空晴るるただそれのみで身も心晴れゆく脳(なづき)われは持ちたり
(紫峯)=== 静冷の朝の空気の只中に座して想えば霧の晴れゆく ===...
(史之春風)ドナドナを思い出す朝 箱詰めにされて晴耕雨読は遠く
(百億粒の灰の鳴る空) TV画面でテント奪われしホームレスを射るは真夏の晴天の光
(はこべ) たんぽぽの黄色のような確かさで明日は晴れるミケの鳴き声
(凛)緊張をスーツで隠し出社した七年も前のある晴れた朝
(萌香)晴れた日の空の青さをみつめれば貴方を見てるような気がして
003:屋根(1〜57)
(ねこちぐら) 見晴るかす屋根の甍(いらか)は金色に燃ゆるがごとく朝(あした)を招く
(五十嵐きよみ) 屋根のない場所へあなたを連れ出して誰より好きだと公言したい
(二子石のぞみ)教会の屋根円(まろ)ければ十字架は墓標のごとく殉教の地に
(藤生 琴乃)屋根裏に住み着いた猫の鳴き声が日ごと人間らしくなる謎
(よさ) 屋根叩く雨はいつまで隠すだろう特別な日の特別な声
(本田あや)あの屋根の向こうの川の向こうがわ 白くひかった君のふるさと
(富田林薫) ゆるやかに陽がのぼるころぬくもりをたしかめようと屋根へとのぼる
(愛観) 帰れない記憶の中のふるさとは深い緑の切妻の屋根
(原田 町) この屋根の下にて暮らすふたりなり朧ろ朧ろの歳月重ね
(青野ことり) うつむいて涙する夜笑う昼 屋根の上にはいつだって空
(堀 はんな)屋根まどのひかり真直ぐ床に落ち天国への道猫は昼寝す...
(スズキロク) 屋根に届く六等星の弱い光 僕に手紙を出す人がいる
(みずき)屋根うすく染まる朝より春となり気だるき夢を揺らすも一度
(紫峯) 古の宮の大屋根天空にそびえておりぬ史跡となりて 
(史之春風) 雨露をしのげる屋根の下にいてさすらいはまた後回しになる
(フィジー) 星の降る夜にあなたと屋根に登り言えない言葉心が喋る
(髭彦)美(は)しき屋根連なる旧き麗江の街並み浮かぶ眼閉じれば
(ドール)ふりむけば夕日を受けて我が家の緑の屋根は金色に映ゆ
(天国ななお) もしここに屋根裏部屋があったなら三日篭れるようなサヨナラ
(野良ゆうき)屋根ひとつ挟んで宙(そら)と向きあえば眠れぬ夜の星は友達
(百億粒の灰の鳴る空)うちがわに殺意の粒をたぎらせて鯵の首刎ねるこの屋根の下
(はこべ)あおによし唐招提寺の大屋根に三日月かかり秋はきにけり
004;限(1〜45)
(智理北杜) 北限のブナの里から赴任した教師が息子の担任となる...
(ねこちぐら) 有限と無限のはざまに揺らぎ居し我れは「人(ひと)」なり 昔も今も
(五十嵐きよみ) 生きている限り愛するなどというささやき 若いわかい恋人
(二子石のぞみ)星々は数限りなく瞬けど辿りつけないあなたの背中
(船坂圭之介) 兄の無きことを負として生き来れど天つ陽のもと限りなく 春
(本田あや)宇宙にも限りはあると説く君の小指に誓ってもらう永遠
(白辺いづみ)見学の理由聞かれず小6の夏のプールは限りなく青
(紫峯)雛飾り無けれど瓶の桃の花 枝の限りに咲き誇りたる...
(原田 町) 彼のひとの我慢の限界超えしなどゆめゆめ思わぬわれの甘さよ
(西巻 真)霧深き村越へ行けば北限の茶と書かれたる標あらはれぬ
(青野ことり) 伸び縮みする時間軸 あわてずに制限速度守って歩く
(haruko)おしゃべりのタネに限りはないようで満開の花咲く夜七時
(百億粒の灰の鳴る空)「限界灘」の深みに溺れし石は十七 網に捕られる烏賊を羨む
(髭彦) 限りある一生(ひとよ)にあれど限りなき想ひの生まれ消え去りゆかむ
005:しあわせ(1〜36)
(ねこちぐら) 春の陽にうとと微睡む縁側に花の散り敷くしあわせもあり
(二子石のぞみ)しあわせの鐘の鳴る丘すずらんを窓辺に置けば春の花嫁
(船坂圭之介) おほぞらの雲揺らす風 狼藉を為すな桜花いましあはせの季(とき)
(白辺いづみ) 赤ちゃんがしあわせそうでまぶしくて電車でわたし泣いていました
(野良ゆうき)しあわせを知るためにあるふしあわせ背中合わせの背中がかゆい
(百億粒の灰の鳴る空) わたくしのしんじられないしあわせがやきついているかぞくのしゃしん
(みずき)しあわせの容点せし蝋燭に微笑み揺れてけふ誕生日
(西巻 真)さだまさしにしあわせですかと問われつつおおきな皿を洗う夕暮れ
(髭彦)愛さるるしあはせよりももとめこしわれなきほどに愛することを
(Ja)完璧じゃなくてもしあわせにはなれる寝顔の息子ふっと微笑む
(原田 町) しあわせかと問われし声の裏返り金太郎飴パキパキと折る
(sera5625) しあわせと貴方の背中に書いてみた なあにと聞かれただ首を振る
006:使(1〜25)
(ねこちぐら) その胸にちらと翳める影なきや使徒行伝の余白の沈黙
(船坂圭之介)われに来る黒き影あり没つ陽の彼方そは死の使者めきて居り
(紫峯) 暖かな日差し射し込む山の寺 勅使の門に春の風吹く...
(五十嵐きよみ) パリジャンが好んで使う言い回しまねて達観してしまえたら
(史之春風) 使わない履歴や資格や恥じらいを朝一番にまとめて出そう
(西巻 真) 水晶の夜いっせいに燃え上がる天使だらけのカタログブック
(髭彦)使はれの身にしはあれど魂曲ぐることなく子らと歩み了らむ
(みずき) 夕顔は天使の涙みづみづと湛へ夕日に白く影ろふ