題詠百首・選歌集その2

 私の勝手なルール(在庫25首以上の題10)が貯まるのに、少し時間が掛かった。これで10番まで出揃ったところだ。次に揃うには、また数日掛かるのだろう。なお、題の次の数字は、投稿サイトのトラックバックの数字。誤投稿や二重投稿もあるので、作品の正確な数とは一致しない場合も多い。

            
選歌集・その2

001:始(92〜117)
(空色ぴりか) 唐突に始まってしまった物語いつもどおりの快速に乗る
(佐田やよい)冷水がペールブルーのグラスからこぼれるような冬の始まり
(きゅん) 新しい今日が始まり分け合っていた体温につげるさよなら
(睡蓮。)始まりはたった二人の男女でも家族増やしてかこむ灯火
(長岡秋生)始まりの河のほとりをはなれゆく葦舟照らすシュメールの朝
(小春川英夫) 春がもう始まっているぬばたまの夜の涙は花粉のせいに
飛鳥川いるか)始祖鳥の羽根は火炎の赤がよし歯牙は吹雪の真つ白がよし
(Makoto.M) おのずから咲き始めたる花というかなしみありて春は推移す...
(田丸まひる)迎えたり待ったりなんて似合わないわたしは先に春を始める
(本田鈴雨) 楚々としてやよいの風にふさわしき沈丁花ふとかおり始める
(ももや ままこ)始まりの刹那を冷凍保存して鮮度を落とすことなく愛す
(田咲碕) 幾度とも浮かぶ想いを逸らしては幼き我の始まらぬ恋
002晴(75〜100)
(園美) 草木の香 鼻をくすぐるそよ風に犬は尾を振る 日はまた晴れる
(みずすまし) 冬ざれの晴れたる空のかなたへと白鳥(しらとり)一羽今飛び立てリ
(奥深陸)春の風に晴海の海は揺れている 走り続けたブーツの踵
(水口涼子)サンダルの小指が摺れて立ちどまる五月の晴れのズミ咲く道に
(佐田やよい)真冬日の晴れた空からこぼれだすソルベを銀の器にのせる
(長岡秋生)鱈の皮剥ぐごとき空晴れもせず橋を渡りて君に触れたし
飛鳥川いるか)なまぬるき体脂肪のみ増えてゆく叱咤の鞭なす冬晴れが欲し
(日向奈央) きらきらと晴れてる夜はあなたまで届く気がして歌いたくなる
003:屋根(58〜86)
(ふしょー) 屋根裏に僕を繋げる真円の虹が欲しくて重ねる不埒
(空色ぴりか)ばらばらとトタン屋根打つ雨の音ああコーヒーが冷めてしまった
(夢眠) 屋根の上わがまま気まま眠る猫ごっつい貴方に甘えて生きる
(西岡ひとみ) 屋根裏は秘密をしまう宝箱見てもいいけど手はつないでて
(凛) 灰色のかわらの屋根に寝そべって読む小説は甘いのがいい
(田丸まひる)手を固くつないで、屋根のてっぺんで泣く女の子たちを無視する
(萩 はるか)屋根裏の蜘蛛の巣に捕らわれている旧い記憶と子犬のうぶ毛
004:限(46〜70)
(ぱぴこ) 明らかな限界があり病室の水平線のような窓枠
(aruka)限りなく澄んだ真夜中 町じゅうが円い広場にあつまる無音
(しろ) 限りの旅へ行かうとするたび呼び戻す娘に祖母は「わ か る」とこたふ
(中村成志)早すぎる河津桜の濃き桃の散るを止めよ今日限り冬
(小春川英夫) 限度額が設定された恋をしてアガペとエロスとすれ違う街
005:しあわせ(37〜61)
(富田林薫)しあわせとなまえをつけたガンプラのディテール処理にこだわっている
(はこべ)それぞれのしあわせこめて種を蒔くファミリー農園春を待ちおり
(ドール) しあわせな笑みをうかべて早々としまわれてゆく雛人形
(きじとら猫) ポケットに収まるくらいのしあわせは口に含むとほのかに甘い
(みにごん)Tシャツの袖口の濃い影の中こそこそしてるしあわせがいる
(まかしきょう) しあわせで不満ひとつも無いと言う独り暮らしの母の強がり
(宮田ふゆこ) メレンゲの泡は上出来 しあわせでいることばかりうまくなってる
(プルタブ) しあわせをことことと煮る音に似て給食室からカレーのにおい
(百田きりん) ままごとのお醤油差しを向けられておいしくなっちゃいそうなしあわせ
006:使(26〜52)
(愛観) 冷め切ったカップの底に溶け残る使わなかった言葉の重さ
(原田 町) 遣唐使仲麻呂の舟たゆたゆと春の天津路ただよいゆくか
(ドール) 「未来」とふ二十四色のクレヨンをみんな使って描かれたる絵
(二子石のぞみ) 少年が上目使いに微笑んで日は暮れてゆくシャーペンの先
007:スプーン(1〜50)
(船坂圭之介) 内よりの死臭を鼻腔に厭ひつつ崩る果実にスプーンを刺す
(五十嵐きよみ)対になる銀のスプーン会えぬ日の慰めのため分け合いましょう
(髭彦)スプーンもフォークもナイフも心地よき形つくれり柳宗理(やなぎそうり)は
(紫峯) ぬばたまの夜の深さよ 珈琲の熱きを冷ませ陶器のスプーン...
(みずき)スプーンに掬ふ蜂蜜ひんやりと雨の夜更けが窓を叩きぬ
(畠山拓郎) 饒舌に世界を飾る男居て黙々動く女のスプーン
(yuko) スプーンの鈍い光の如くなる吾の未来かと思う春の日
(愛観) 抉られたココロ冷たいスプーンの上で震える白いプディング
(ドール)スプーンでかき回しているコーンポタージュとろりたゆたう春の一日
008:種(1〜27)
(智理北杜) くさぐさの朝顔の種ばら撒けばよろずの色と容(かたち)となりぬ...
(船坂圭之介)はろばろと凪ぐ北の風背に受けてしみじみと聴く貴種流離譚
(紫峯)戸を開けて春きたるらし百種(ももくさ)の花咲き初めし里の家々...
(みずき) 種の無き葡萄のやうな歯ごたへが愛の時間をまた通り過ぐ
(髭彦)いかばかり種蒔く仕事なし得たる教職退(の)く日近づき想ふ
009:週末(1〜26)
(ねこちぐら) 酔漢の声もいささか枯れてあり週末なれば夜更けも早い
(新津康) 週末の予定を手帳に書き込んで、時間の速さを感じ入る日々。...
(富田林薫) もうだいぶ一人でいるのもなれたから週末のよていはコンビニで買う
010:握(1〜26)
(船坂圭之介)滴るはわが血か握らるるままに柘榴しはぶき残し潰へゆく
(みずき) さよならと真闇の冬へ握手する人と人との夢の儚さ
(本田あや)つよく握りしめれば泣くし弱ければ責めるのだろう 夕焼けを待つ
(小埜マコト)握っても握り返さない手のひらの生命線を書き足している