題詠百首選歌集・その3&アクセス7万件突破

 在庫がやっと規定件数(?)に達しました。選歌集その3をお届けします。毎度申し上げているるように、何の権威もない勝手な選歌ですから、お気に召さない点も多々あろうかと思いますが、私の遊びごころに免じてお許し下さい。
 なお、このブログ、気が付いてみたらアクセスが7万件を超えました。2年弱での数字ですから、ちょっとしたものなのかも知れません。これまでアクセスして下さった方、特にコメントを下さった方々に、厚く御礼申し上げます。キャバクラもカラオケボックスも弁護士事務所も入っている得体の知れない雑居ビルのようなブログですが、今後ともよろしくお願い致します。


                題詠百首選歌集・その3


001:始(118〜142)
(nine)なくしていくものばかりを数えてた 春も間近の始発電車で
(春畑 茜) 四十四の歳始まれるけさにして弥生のみづに墨を触れしむ
(佐原 岬)始まりは百億の星も見逃したたった一度の口づけだった
002:晴(101〜126)
(松本響) 銀色の貨物列車に載せられてきみの明日に運ばれる晴れ
(小早川忠義)キーを打つペンを滑らすいずれとも憂さを晴らすにうべなる手立て
(坂本樹) きっと今あなたもゆれているのでしょう空はこんなにこんなにも晴れ
(野樹かずみ) あの晴れた朝に廃墟となる街に少女のあなたがいたのだという
(内田誠) 君からの距離の単位が一夏の離ればなれで晴れてゆく空
(春畑 茜) 晴れゐるは空のみならずけふわれに雲雀のこゑのひかりが届く
003:屋根(87〜112)
(坂本樹)ときどきは忘れてもいい屋根という屋根から海がみえていた日を
(翔子) 目印は赤い屋根だとメールきて海に向かって一歩踏み出す
(野樹かずみ) 『小公女』読んでしばらくは屋根裏のセーラのつもりの掃除の時間
(本田鈴雨) 春雨に若葉ほぐるる楡のもと黒き甍の屋根しずもれる
(佐田やよい) まだ雨は降り続けてるあの青い屋根にもそして君の髪にも
(ももや ままこ)夕暮れに黒くて長い影の猫が赤色の屋根で集まれば夜
004:限(71〜95)
(奥深陸)『お一人様一個限り』のトイレットペーパーふたりで買いに出掛ける
飛鳥川いるか) √2の無限小数うたがひて眼鏡はずせば世界はおぼろ
(坂本樹)てのひらはすこしさみしいままでいいあなたと海をめざす限りは
(春畑 茜)けふを限りとひとり眺めし湖(うみ)ありき秋ゆふぐれのそのさざれ波
005:しあわせ(62〜87)
(中村成志)風の中舞う黄舞う髪揺れる枝きみがしあわせだからしあわせ
(田丸まひる) 人生ではじめてついた嘘はたぶん、しあわせじゃないのに叩いた手
(逢森凪) しあわせがとけてひとつになるようにあなたのこえで いま、ねむらせて
(花夢)しあわせを語りたがってぽけっとの飴がこんなにどろどろ溶ける
008:種(28〜52)
(二子石のぞみ)一粒のスイカの種を飲み込んで触れ合わぬまま夏は終わりぬ
(ドール)蒔く場所がないままずっと持っている君にもらった向日葵の種
009:週末(27〜51)
(yuko) 子供らの声のまぶしき週末の公園淋し駆けて過ぎたり
(ドール) 気に入りのワインと本を買い求めわが週末の夜は始まる
(Ja) つかの間の休息を得る週末はダンナにムスコ丸投げにして
010:握(27〜51)
(富田林薫) 手のひらにこもれびをあて温もりをとじこめようと握りかえした
(原田 町) 固く固く手を握りしむ空襲の無惨をいまに三月十日
(きじとら猫)「大好き」の成長速度が速すぎて今日の自分が把握できない
(五十嵐きよみ) キスをして別れたいのか握手して別れたいのか今朝のあなたは
(天国ななお) 三角と丸い六つのおにぎりを娘の握った丸から食べる
(川鉄ネオン)この俺を許すのならばお握りの塩は多めに具は大きめに
(春畑 茜)まぼろしを握りゐし手か灯のもとにひらけば砂と雨の香のする
(あや)「頑張れ」とギュッと握った手の平のぬくもりを抱き眠る春の夜
(坂本樹)てのひらは何を握っていたのだろう海がこんなにとおくにみえる
011:すきま(1〜29)
(ねこちぐら)日常のすきまに覗く横顔の厳しく我れを咎むる夕べ
(オガワ瑠璃)まな板で野菜を刻む貴方との時間のすきまも刻みゆくよに
(みずき)濡れそぼつ心のすきま埋めんと明日へ冷たき体温を抱く
(sera5625) 喧嘩して布団のすきまに眼がふたつ 怒ってないからもう出ておいで
(ふしょー)ここまでとここから先を区別するすきまに落ちた厄介な恋
(富田林薫) カーテンのすきまをぬけて春さきがわたしの部屋にまぎれこんでる
(五十嵐きよみ)愛してる愛しているとウエハースですきまを埋める心もとなさ
(原田 町)骨密度測定されおり年々にすきま風吹くわれの身めぐり
(ドール) 旅立ちを間近に控えすきまなく詰め込まれていくボストンバッグ
012:赤(1〜26)
(ねこちぐら) 太古より譲り受けたる血脈の「赤」いかなるやと春陽に透かす
(小埜マコト) 真夜中に取り込まれそう一人では 赤い仔猫を探してきます
(富田林薫) はるの子がおひるねをする玄関にたてかけられた赤い自転車
(yuko) どうせなら朱に交われど赤ならぬ黒き己れで在りたしと思う