題詠百首選歌集・その7

選歌集その7。去年の選歌集は最後が「その70」だったから、今日でその1割になったところだ。ところで、去年の今日の欄を見たら、「選歌集その9」として46番の題まで掲載している。それだけで見ると、去年より少しペースが遅いということになるのだろうか。


       選歌集その7


003:屋根(138〜162)
(クロエ)屋根裏の窓を切りとる夏の庭いもうとの腕は白くほどけて
(吉浦玲子)永遠より少し短い愛がある玉姫殿の屋根の十字架
(おとくにすぎな)流星がころんことりとたちどまるわたしの屋根のかたむきぐあい
(暮夜 宴)お喋りな烏が屋根で騒ぐので褪めてしまった愛を弔う
006:使(109〜134)
(pakari)使用上特に支障はありません春めく風に胸がゆれても
(空色ぴりか)使わずにすんだ喪服を片づけるシャワーを浴びて少し眠ろう
(吉浦玲子)使徒ヨハネのあふぎし光と異なれどあけぼのすぎの木の間まぶしも
(文月万里)お使いに出かけた天使が使いすぎお財布の中ぬけがらの愛
(ワンコ山田)小指だけ使う誓いは破られてお針箱には待針二本
(水口涼子)君の目が流れる雲を追いはじめ椅子を使った遊びを終える
008:種(79〜103)
(Makoto.M) 歯の欠くるまでわが噛みし花の種さかしまに夢の記憶を撫でつ...
(佐原 岬)床に伏す我が子のために種をまく花が咲くまで逝くんじゃないと
(末松さくや)遠くまで飛べなかったね 種としてふがいのなさをなめあっている
(吉浦玲子) 平常心平常心とぞつぶやきてかぼちゃの種をほほばりてをり
011:すきま(55〜79)
飛鳥川いるか)iPodの音のすきまに次の駅つたふる声と風が光れり
(中村成志)素粒子間のすきまはとても広いから紫の風だけがこぼれる
(遠山那由)たつきする時々刻々のすきま狙う楔は信じたくない訃報
014:温(27〜51)
(yuko) 百年後異常気象の代名詞となるやもしれぬ三寒四温
(青野ことり) 春浅い川面ちかくのひだまりは温度差のある風のあそび場
(坂本樹)雨の日のきみがさしだすさみしさにその花束に告げる体温
(スズキロク)温めちゃいけないひとを温めたのかもしれない 着信二件
(紫峯)お水取り過ぎれば温む季(とき)となり庭の小枝にめじろも来たる...
(行方祐美)温もりという言葉さえ忘れおり暖冬につづく沈むメールに
(小埜マコト) あの日から温かかった思い出は幻想と知る月は真っ青
(新井蜜)どんぶりの温もりに手を添えながら昨夜のきずをかばって食べる
(翔子)温野菜ひと品つけて帰り待つ風通りゆく星を蹴散らし
015:一緒(28〜54)
(坂本樹)一緒にはされたくなくて夕ぐれの窓をひたすらみがいています
(ドール)これからもずっと一緒にこの部屋であなたと食べるはずの朝食
(白辺いづみ)愛してた 時のレールを走りながら一緒の夢をみてたバス停
(ぱぴこ)夕焼けにおされるままに手渡した手紙はガムと一緒に捨てて
(紫峯)すみれ野の真昼の日差し暖かき 君と一緒の空を見ており...
(小埜マコト) 消印のないままの手紙水曜の燃えないゴミと一緒に捨てた
(橘 こよみ)ここからは悲しいことがないように氷蜜柑を一緒にたべる
(新野みどり)もし君と一緒だったらどこまでも行ける気がした初夏の夕暮れ
016:吹(26〜52)
(きじとら猫)あのころのふたりをきっと探してる窓からのぞく吹奏楽
(ドール)幼稚園の卒業式はたんぽぽの綿毛を吹いて飛ばすみたいに
(春畑 茜)手のひらを吹く夕風にさらはれてわれを黄蝶の死が離りゆく
(はな)曇天に吹奏楽の生真面目な音色響いて午後三時半
(新井蜜)さよならといわれた夜に鍋焼きのうどんをふうふう吹きつつ食べる
(遠山那由)主なき椅子に座れば背中から身体の中を吹き過ぎる風
026:地図(1〜27)
(みずき)地図なぞる手のひら奔る命線ちぎる未来を天啓と思ふ
(行方祐美)春の地図描きはじめて気付きたり明日と呼ぶ日のふと弱きこと
(春畑 茜)地図の上(へ)にわれは雲かも狩野川(かのがは)の流れのさまを飽かずながめて
027:給(1〜25)
(船坂圭之介)給はりし神の啓示か春あかね されど悲しき臨終告知
(智理北杜)夜警さんの娘が長く給食婦を勤めていたり夜の学び舎(や)...
(白辺いづみ)旅に出る 君の住みたる飛田給過ぎて電車は一面朝陽
(春畑 茜)むごきこと書き給へると読み終へて四月の本を灯に閉ざしたり
028:カーテン(1〜26)
(みずき)カーテンの向かふの影は春愁か 艶(なま)めく風に木木のざわめく
(此花壱悟)カーテンの白ひらめいて空の碧陽の橙よ凱風快晴
(オガワ瑠璃)カーテンを揺らし食卓すべりゆく風が貴方の頬をも掠めて
(髭彦)飼ひ猫の爪立てのぼるカーテンを開くれば空に月輝きぬ