題詠百首選歌集・その8

 大学のクラス会の本年度幹事をやっているのだが、今日が本年度の例会で、無事終わってホッとして帰宅した。ところが、報告の資料を早速作って会員に送ろうとしたら、プリンターの故障で印刷不可能、せっかくやる気になっていたのに、ちょっと拍子抜けしたところだ。まあ、考えてみれば、一昨日あたりに故障していたら、例会の資料が印刷できなくてパニックになるところだったので、故障のタイミングが良かったと言っても良いのかも知れない。
 そんなわけで、今日は選歌をしない積りだったのに、選歌をする時間の余裕ができてしまった(?)。

        
    選歌集・その8


001:始(168〜192)
(もけこ)始発など無ければ別れなんて無い午前六時の狸寝入りも
(宵月冴音)空の青は特別な色しあわせが始まるうたをつむいでみれば
(暮夜 宴)始まりは集中豪雨ドブネズミみたいに埋(うず)め合った寂しさ
(神川紫之) 始まりも終わりも見つけられなくてあの日のひとりあそびの続き
002:晴(153〜177)
(おとくにすぎな)夕空は晴れてからっぽコウモリのみじかい声が夏を呼んでも
(吉田ともき) 春の雨はどこへ流れてゆくのだろうもう戻れないあの晴れた日に
野州ティッシュボックスの残り少なき寂しさの捨て処なく晴れわたる空
滝音)晴れた日の空を着こなす日曜日愛車の色はセルリアンブルー
007:スプーン(104〜133)
(お気楽堂)スプーンをゆっくり回す溶け込んださようならごと飲み干す紅茶
内田誠)できたての光が沈むコーヒーのカップの底を回るスプーン
(こはく)違和感を吟味するには丸すぎるスプーンの背を無言でみがく
008:種(104〜128)
(大辻隆弘)ふきすさぶ風の記憶をとぢこめて夜々重りゆく冬の種子たち
(水口涼子)夏雲の透かし模様の便箋に包んでしまうあさがおの種
(逢森凪) あのひとのためだけに咲くこの花の種を捨てられなくてまた春
012:赤(52〜76)
(新野みどり)夏の夜は赤いぺティキュア塗りながら遥か彼方の海を夢見る
(みにごん)赤い血はあなたのためにあるのだと思う 外耳に潜む花びら
013:スポーツ(52〜76)
(夏実麦太朗)とりたてて趣味は無いのでスポーツを見るのが好きと言うことにする
(野樹かずみ) 色あせた水着を一年じゅう吊るしているスポーツ洋品店がある町
(駒沢直)深夜まで続く僕らの長電話 スポーツニュース音無しで見る
017:玉ねぎ(26〜50)
(ドール)玉ねぎの芽ぐむ春にてもう一度読み返しおりツルゲーネフ
(春畑 茜)或る時は玉ねぎ五つさげてゆく花あふれ咲く左岸の道を
(萌香)玉ねぎを刻むそばから溢れ出る愛されたこと愛したことが
(ME1) ステップを踏めば玉ねぎ踊り出すキッチン通りは今日もパレード
018:酸(26〜51)
(sera5625)ふたまわり上のあなたの前だもの 酸いも甘いも知った振りする
(萌香)ため息の二酸化炭素が増していく待つことだけを許されていて
(ME1) 辛酸を舐めてきたのと うそぶいて 不幸の味を たしなむ時代
029:国(1〜27)
(みずき)国生みの話に更けし夜もありて細やぐ燭に屏風絵の消ゆ
(原田 町)墓地案内つぎつぎ届く下総国葛飾在は終いの住処か
030:いたずら(1〜26)
(船坂圭之介)いたずらにひとを思へど陽の下は春展(ひろ)ごりて在るのみの昼
(みずき)いたづらに過ぎゆく日日よ 虚無といふ心の奥を満たせ春光
(此花壱悟)いたずらをしてみむとする大気圏隕石一つ荒れ野に落とす
(小春川英夫) いたずらな人魚の瞳を持つひとと泳いだベッドのシーツのにおい