題詠百首選歌集・その10

プリンターの故障がやっと直ったので、昨日は大学クラス会幹事の残務整理に明け暮れた。それもやっと一段落して、選歌に向かったところだ。もっと在庫が貯まっているかと期待していたのだが、そうでもないようだ。お天気は、やっと通常の春らしいペースに戻った。

 ご存じでない方のためにたまに注釈しているのだが、「題詠100首」というネット短歌の催しがある。私もこれに参加した上で、好き好んで全く勝手な選歌をしており、いずれ、百人一首を作ろうと思っている。2年前から同じようなことをやっているのだが、そのためにブログなるものに手を出したのだから、私をブログという新しい世界に導いてくれた恩人は、この選歌と百人一首ということになる。なお、題の後の数字は、会場に「トラックバックの件数」として表示されている数字である。在庫が25以上になった題につき選歌し、それが10題貯まったらこのブログに載せるのを原則にしている。


    選歌集・その10


005:しあわせ(141〜165)
(暮夜 宴)しあわせはマシマロみたい あまやかなうさぎの耳の付け根のあたり
(そうがわさやこ)春の日に干された布団にくるまれてしあわせだった昨年までは
(緒川景子)しあわせなうたならいつかうたうからいまはこうしておやすみなさい
(内田かおり)遙かなる白い記憶のしあわせは眠る赤子と陽溜まりに居り
011:すきま(80〜104)
(駒沢直)すきまから なにか良くない考えが 頭のぞかせこちらを見てる
(こはく)慣れたのは(すきまの作り)笑顔より改行のない話のぬるさ
(nnote)すきまから見えているのは四月ですあなたを埋めた春が来ました
(香山凛志)やわらかく煮崩れるから恋がすきまどの向こうはいつもまばゆい
(pakari)すきまなくこぼれる桜街中に散らばる春の蛇口ひらけば
(ハルジオン)つなぐ手のぶっきらぼうな温かさ 日々のすきまに咲くハルジオン
(A.I)絶筆の冒険譚の「その後」を待ち続けてる書棚のすきま
020:メトロ(26〜51)
(本田鈴雨)ぎんいろの車両のひかり並びいて東京メトロの車庫に春の日
(遠山那由)地下鉄をメトロと呼べど地下ガスは心の底で爆発を待つ
(紫峯)あこがれの仏蘭西遠し本屋出て街灯の下メトロへ向かう...
034:配(1〜26)
(智理北杜)ヤマアラシのジレンマはイヤ!これからは配位結合ほどの距離感...
(髭彦)気配りも過ぎれば欝に冒されむ漱石もいふとかくこの世は
035:昭和(1〜31)
(ねこちぐら) 街の灯の冷たき夜更けは肩越しに昭和が優しく我れを慰む
(船坂圭之介)わが友の無頼に逝きし過の日より遠く消えたり美(は)しき昭和は
(みずき)昭和から続く日溜まり 意識とふ不思議な世界ひそと踏みたる
(髭彦)ひとことに昭和とくくれぬ歴史をばくくりて逝きしをのこありける
(はな)私よりちょっと大人の君が見た昭和はどんな夕焼けでしたか
036:湯(1〜27)
(船坂圭之介)浴槽の底よりあがる湯のごとき瞋恚を怺へつつ身沈ます
(髭彦)いつかまた蛇口ひねらば湯の出づるくらしの終る日の来たらむか
(行方祐美)熱湯のごとき悲しみ抱く夜ことばの坩堝割ってはならず
(春畑 茜)薬湯のすべては喉をとほりたり春さびさびと匂へるままに
(惠無)潰れかけた想いが言葉にならなくて湯気の向こうをじっと見ている
037:片思い(1〜26)
(ねこちぐら) 頬染めて片思い告ぐ愛し子は今年五歳の真似っこ盛り
(みずき)潮鳴りの一夏(いちげ)眩しき片思ひ 耳に涼しき声の遠のく
(坂本樹)みあげれば少年たちの片思いばかりあつめてしまう空です
(はな)学び舎で見た世界への片思い忘れたふりして大人になった
038:穴(1〜25)
(みずき)崩落の穴ゆ堕ちこむ夢の中 か細きみづに睡蓮の消ぬ
(行方祐美)風穴のほしいこの夜に壊しおり春の夢積む言の葉という
039:理想(1〜26)
(船坂圭之介)寡黙なるわれゆゑ言へず冬の陽に向かひ理想といふ大き夢
(ふしょー)糾える縄の如しが解けてゆく理想を捨てた頭の芯で
(行方祐美)理想など持たぬ強さよふか空に白木蓮が今を光っています
(オガワ瑠璃)作るのが精一杯で理想像考えてる間にまた鍋焦げる
(駒沢直)曇りのち雨の逆説 君のいう理想どおりの週末を待つ
(本田鈴雨)のびやかに枝はひとしく天めざす 或る理想とはけやきのかたちか
040:ボタン(1〜25)
(ねこちぐら)たとうならほんのボタンの掛け違え有りがち過ぎる恋の終わりは
(船坂圭之介)片隅に落ちしボタンの煌めきて亡き妻の服思ひ出し居り
(みずき)一つだけ外すボタンの高鳴りに燃ゆる思ひをもう捨てられぬ
(五七調アトリエ雅亭)先輩の第二ボタンが欲しかったほんの少しの勇気が欲しい
(髭彦)うつせみの花にしあるやくれなゐも淡きボタンのたをやかに咲く
(オガワ瑠璃)気が付けばボタン一つでつまずいて料理上手は夢のまた夢
(畠山拓郎)快感で壊れた脳が無意識に壊れたボタンを連打する夜
(春畑 茜)胸もとにひとつボタンの光るあり桃花(たうくわ)に触れし記憶のやうに
(治視)テンションがあがるボタンを押しました 哀しいことがあった次の日
(小春川英夫)マフラーもボタンもはずして歩く朝 桜並木はもう冷たくない