題詠百首選歌集・その17

 ゴールデンウィークも明日から後半に入る。去年の選歌集を開いてみたら、昨5月1日に、最後の題まで選歌が進んでいる。それに比べれば、今年は少しペースが遅いようだ。もっとも、在庫が20以上貯まっている題もかなりあるので、残されたゴールデンウィークの間にかなり選歌を進められるのではないかと、楽しみにしている。

        
        選歌集・その17


011:すきま(130〜154)
(ひわ)すきまなく黄色で埋めよいちめんのなのはなのごとレンギョウのごと
(吉浦玲子) あるときは日々のすきまにぞんざいに置く祈りさへ君は聞きゐつ
(水口文)細きゆえ高き音にて鳴るすきま開けて放てばカーテン踊る
内田誠)すきまからたどれる夜に降る雨の遠くの音が指に伝わる
014:温(103〜128)
(寺田 ゆたか)温かきスープも煮ゆる頃ならむ氷雪の島にぽつり灯の見ゆ
(take it easy)風邪引きのあなたのために煮るうどん温泉たまごひとつ落として
019:男(76〜100)
(素人屋) こんな時何を優先するだろうブルースハープ吹くあの男(ひと)は
(本田あや)男子には男子の理屈 マスカラのついた瞼で押し止めている
(おとくにすぎな)ドラえもんの道具でなにがほしいなんて男子の会話にはまざらずに
031:雪(30〜54)
(小春川英夫) 「ヒマラヤの万年雪になりたい」とマンホールから声が聞こえる
(野樹かずみ)キッチンの硝子のくもりをちいさなゆびでぬぐって春の雪を見ている
野州)葉桜の下をゆくなり妊み猫雪の記憶は疾うに失せしや
(富田林薫) あやふやなカタチのまんまぎこちなく雪どけみずにひたすてのひら
(紫月雲)北へ北へむかふ人の手に降りたれば淡雪ほどのさだめと知りぬ
057:空気(1〜25)
(船坂圭之介)澱みたる空気積み上げ無蓋車の列は廃止の線を動かず
(みずき)春さやに湿る空気へ触れし髪 泣かぬ女とならん明日は
(ふしょー)サンキストレモンのような空気から君の気配が消えた三月
(髭彦)吸ふほかに読まねばならぬ近頃のこの国覆ふ空気の重く
(坂本樹)いつもより花のあかるいみずぎわにのこるあなたのかたちの空気
(新井蜜)雨降ったあとの空気が澄みわたりおおひら山が近付いてくる
059:ひらがな(1〜25)
(ねこちぐら)優美なる曲線愛しきひらがなのいろは歌など見惚れておりぬ
(ふしょー) またあしたふるてのひらがなつかしい大人になってふれなくなって
(川内青泉)人生の三分の二を小学校で暮らせし我はひらがなばかり
060:キス(1〜25)
(柴やん)不意打ちのキスに戸惑う吾の手にもぬくもりありて立ち止まりおり
(畠山拓郎)会話さえすれ違う今、キスまでの距離に光の速さがほしい
(春畑 茜)喉いまだ癒えざる午後をわが含む駆風解毒湯(くふうげどくたう)エキスの濁り
(暮夜 宴) バスタブでついばむようなキスをしてふたり魚になって眠ろう
061:論(1〜25)
(みずき) 論じあふ時間たつぷり残されて 被髪(うなゐ)乙女に寒き春くる
(行方祐美)経済も歴史も心理も含まれて四月に重き社会福祉
062:乾杯(1〜25)
(ねこちぐら)密やかな再会なれば乾杯もそっとグラスを添わせて済ます
(行方祐美)長渕の乾杯この頃聴かないとおとうとは言いサウジに発てり
067:夕立(1〜26)
(船坂圭之介)影ながき樹下三尺の方形を濡らし夕立たちまち終はる