題詠百首選歌集・その19

 このところ暑い日が続く。明日は30度を超える地域もあるとか。ゴールデンウィークも終わった。毎日が日曜日の我が身としても、連休の終りは少し物足りないような気がしないでもない。

<ときどき書いている御存じない方への注釈>
 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の会に、一昨年から私も参加しており、全く勝手気ままな選歌をして、終わった時点で「百人一首」を作ることにしている。この私のブログの中では、量的には主役と言って良いだろうし、またこのブログを作るきっかけになったものでもある。なお、題の後に書いてある数字は、会場のサイトに記載されているトラックバックの件数である。

     
          選歌集・その19


015:一緒(107〜131)
(佐原みつる)唐揚にレモンを搾る指先のもう一緒にはいられないひと
(みち。)一緒ってなんなんだろう昏々と眠るあなたにひげを描いてる
(吉浦玲子)「バグダッドカフェ」を観てゐる土曜日のだあれも一緒にゐないしあはせ
020:メトロ(78〜102) 
佐藤紀子)いつよりかメトロと呼ばれて地下鉄が名前からまずおすましとなる
(すずめ) メトロなる くらききざはし ふみまよい いつしかにゆく よもつひらさか
(ハルジオン)オリオンが西の空へと消える頃「春行き」メトロでお会いしましょう
(育葉)地下鉄をメトロと呼ぶから 一度だけマドモアゼルと呼んで下さい
(夏瀬佐知子) メトロとは言わない国に住みたいと意識し始め黄昏てゆく
(おとくにすぎな)底のほうからもかすかな蝉時雨メトロの駅におりてゆくとき
(花夢)ぐずぐずと決めかねたままなまぬるい東京メトロの風に押されて
028:カーテン(55〜79)
野州)カーテンの襞の陰影くきやかに真昼間なれば閉ぢしカーテン
(本田あや)カーテンでくるんだ肩がこそばゆい サンクチュアリで夕焼けを待つ
(萌香) 空色のカーテン越しに揺れる陽が引き離してく朝の始まり
(つきしろ)カーテンのすそにだれかがいるようで缶コーヒーをふたつならべる
(ぱぴこ) カーテンを閉めるよ帰るきっかけを今日はとことん締め出すつもり
(遠野アリス)昨日より今日が良い日になるといい 誤魔化し笑って開くカーテン
(nnote)未だひとの妻でいようか曖昧な境界ゆらす白いカーテン
034:配(27〜51)
(小早川忠義) 配列をS字に繋げ眺めれば夏の夜空に蠍出で来ぬ
(すずめ)酒好きのサルのゲノムが醸されて人と熟れるや塩基配列
035:昭和(32〜56)
(暮夜 宴) カルピスが初恋の味だったこと昭和生まれのぶち猫のこと
(ドール)狂いたること知らぬげに咲いている昭和八十二年の桜
(野樹かずみ)貨物列車の通過は長しこの黒い列車は昭和の向こうより来る
(青野ことり) さざめきが形となって過ぎてゆく昭和と名づけられた橋の上
036:湯(28〜52)
(原田 町)大祖母のブリキ製なる湯湯婆を取り出し使ふ眠れぬ夜は
(yuko)お茶よりも白湯がいいのと言う母の艱難多き一生(ひとよ)を想う
(ダンディー)「て」か「を」かのひとつの文字に戸惑いて時を忘れて長湯をしたり
(文月万里) 白濁の湯に首浮かべをるわれら不義密通の罪びとのごと
(青野ことり) 傷ついた羽をやすめて眠るならぬるま湯ほどのぬくもりの胸
058:鐘(1〜25)
(ねこちぐら)鐘楼に仰け反る背(そぴら)も艶なりし清姫まさに鬼女とぞ化さん
(船坂圭之介) あぎもこといふべくもなき寂天の薔薇へいんいん晩鐘の鳴る
(行方祐美)今朝塗りしタイガーバームの涼しさに教会の鐘鳴り初むるなり
(川内青泉)テレビない子ども時代はラジオかけ毎日聞いた「鐘が鳴る丘」
066:切(1〜25)
(みずき) 切れさうな恋に啼きゐし空蝉のこころ遠かり春光のなか
(船坂圭之介) 忘れられ飽き果てられし此の身をば切り断ちしひと忘れ得ず居り
(行方祐美)大切な言葉はいつも贈られて今年の春も傾くばかり
069:卒業(1〜25)
(駒沢直)卒業の季節伝えるテレビ見る さしたるけじめもなくて一年
070:神(1〜25)
(みずき)神領のひえびえ親し 耳朶震ふ鈴の薄暮へしばし目つぶる
(はこべ)神さびし平塚八幡宮の杜にかがり火ゆれて能はじまりぬ