題詠百首選歌集・その21

  選歌集・その21


004:限(200〜224)
(みゆ)限りない未来を君と契りましょうか 白詰草をかんむりにして
(わたつみいさな。) 無期限の約束をしたわけじゃなくだから愛されないというのも
(まゆ)限られた時間の中で 限りなく広がる海を君と見ていた
(月原真幸) 期限切れ片道切符はいつまでも胸ポケットにしまっています
(フワコ) 冬だけの限定品の石けんの最後の泡が連れてきた春
今泉洋子)限り無くひろごる未来楠わかば四千年の青と対(む)き合ふ
005:しあわせ(192〜216)
(橘みちよ)われにつき来るをさなき兄妹もはやゐず失ひて知るしあわせのあり
(丸山汰一)子供のころ思い描いたしあわせと似ても似つかぬきょうがまた来る
(高橋えっくす) 今日のことを思い出したりするんだろう しあわせな日の一例として
(澁谷 波未子) 春風に身を横たえて空見上げ 手話で何度も「しあわせ」を告ぐ..
(月原真幸) ふしあわせではないつもり ストローでアイスココアをかき回してる
014:温(129〜153)
(描町フ三ヲ)くぐもった抗議の声は腕の中猫の形の温度をいだく
(宮田ふゆこ)この春に変わったひとをかぞえない 温泉玉子とろりくずして
(丸山汰一) 大声でわらうテレビを聞き流しただ温めるだけの夕食
(内田かおり)手のひらに伝う温もりいましがた捕らえた日光(ひかげ)がちらちら踊る
(逢森凪)あの人が教えてくれた温もりを忘れてないからまた恋をする
022:記号(79〜103)
(ハルジオン) 太陽に愛されて咲く立葵始まる夏の記号のように
(花夢) この街の砂漠 のちのちゆくひとのためかなしみの記号をしるす
(振戸りく) 「はじめてのデートの前夜みたいに」という意味を持つ表情記号
023:誰(77〜101) 
佐藤紀子)本当の悩みは誰にも言へなくて天気の話をして別れたり
(吉浦玲子) かつて誰かでありし白骨重なりぬホロコーストに名を奪はれて
(aruka)音のない誰彼時を影のない路面電車がとおりすぎてく
(佐原 岬)誰よりも苦しい君に追い打ちをかけてしまった私の涙
(みち。)菜の花はひとりでも咲くふるえてるあたしを誰も知らなくていい
029:国(53〜77)
(萌香)届かない叫びは耳を掠めてくもはや異国の言葉のように
(翔子) この山河国破れぬよう何を為すヒバリウグイス抜ける碧空
(紫月雲) 国渡るたましひの火の我が内に宿り来たりてHelloと言ひぬ
(五十嵐きよみ) いれたての紅茶の色をひきたてる中国製のカップの白さ
(nnote)国ひとつ潰す苛立ちキーを打つ音かたかたと満ちてゆく夜
030:いたずら(53〜77)
(五十嵐きよみ) ひとしきり話してお茶を注ぐときにいたずらっぽい笑顔と出会う
(nnote)いたずらの文字の大小ひらがなの軽さ重さも畳んで棄てる
037:片思い(27〜51)
(小春川英夫) 「片思いは得意ですからほっといてください」桜は満開である
(原田 町)片思ひシラノの恋を朗々と語り給ひき高齢の師は
(帯一鐘信)まだどこへ入れたらいいかわからないpieceの裏にある片思い 
(白辺いづみ) うっすらとあなたがいます片思い気持ちは寝起きの空に吸われる
(青野ことり) 夕暮れの雨の音さみし片思いばかりが胸をいっぱいにする
(五十嵐きよみ)かけがえのない懐かしい日のあかし片思いから始まる恋は
072:リモコン(1〜25)
(ねこちぐら)誰の手にリモコンありや我が生の数奇ますます極まり知らぬ
(みずき)リモコンの真四角滑る指(および)ゆゑ指紋はきくと玻璃に浮かびぬ
(此花壱悟)リモコンを奪われたよなおももちで父子で二人で真昼の電車
(坂本樹) リモコンがこわれてしまいぼくたちにやさしい雨が降りやみません
(帯一 鐘信)リモコンの電池を回しもう一度巻き戻しみる青春の傷
073:像(1〜25)
(みずき) 彫像と櫻しぐれのハーモニー醸す湖面の白き細波
(船坂圭之介)溶けかかる雪像に似て思ひ出は角まろやかに艶めきて居り
(ふしょー) 泣くことも悲しむことも許さない恋が結んだ肖像を消す
(駒沢直) 銅像と同じポーズで写真撮る そういうとこに感心してる
(佐原 岬)鏡像をじっと見つめて聞いてみるあなたはだあれ私はだあれ