題詠百首選歌集・その23

 やっと在庫が規定数(?)に達した。釈明めいたコメントを一つ。77や78がまだなのに、80と85が登場するのも妙なものなのだが、会場サイトのトラックバックの件数を選歌の基準にしているので、二重投稿などで後の方の在庫が多いように見える場合も出て来る。本来なら、前の方の題が揃うのを待つべきなのかも知れないが、もともと勝手気ままなルールなので、あまり神経質には考えないことにしている。


      選歌集・その23


003:屋根(214〜238)
(フワコ) 屋根用のペンキ未使用のまま朽ちて家も牛舎も思い出になる
(癒々)ゆるやかな坂の上から数えてる あなたと居たい屋根は五番目
(笹井宏之) もうそろそろ私が屋根であることに気づいて傘をたたんでほしい
(霰)屋根裏の暗がりで飲む珈琲にショパンと秘密を溶かし飲み干す
007:スプーン(184〜208)
(星桔梗)今日だけでもう何度目の沈黙か考えながらスプーン握る
(David Lam)スプーンで小春日和をすくうごと子等は静かにプリン食べおる
(やや) ひとり分のカレーの香りはこび来る声のうしろにスプーンを置く
(砺波湊)昼休み「虹が出た」ってざわめきをスプーンをくわえながら聞いている
031:雪(55〜79)
(夏実麦太朗)各々が好みのアイスを食べている表の雪は止みそうに無い
(五十嵐きよみ)エンゲージリングを捨ててこの指に飾ってみたい雪の結晶
(野良ゆうき)出番なき赤い雪かきスコップの見上げた空はすでに夏色
(つきしろ) あきらめのつかないことをかぞえては歩みをとめる むら消えの雪
(吉浦玲子)残雪を舐めやうとして夢は覚む口といふ洞(ほら)所在はあらず
(本田あや)薬指のネイルをなぞりながら君は故郷の雪の話をしたがる
043:ためいき(28〜52)
(よさ)ためいきは湘南に浮く青空が見てないときにそっと手放す
(川内青泉)パラサイト二人抱えて奮戦す母からでるのはためいきばかり
(ドール)ためいきのでるほど青い澄みきった海を知るとふかつての少女
(佐原 岬) ためいきをわざわざ聞こえるようにつく嘘をつくのは恋のはじまり
(青野ことり) きみの吐くためいきばかり気になって言いたいことが形をなくす
044:寺(27〜51)
(原田 町)石段を登りて参る観音寺ぽつくり志願のきみと連れだち
(野樹かずみ)お寺の池が底なし沼におもえていた精霊流しの舟ゆれていて
(すずめ)紅枝垂すけて色づく風衣そぞろになびく寺の石道
046:階段(26〜50)
(暮夜 宴)背中から抱きしめられて蝶になる午前0時の非常階段
(原田 町) 幼な児を小脇に抱へ階段を跳ぶごと降りる若さ羨む
(ドール) だまし絵の中に閉じ込められ今日も登り続ける無限階段
(野良ゆうき)階段を二段とばしで駆け上がる(屋上からは明日が見える)
(五十嵐きよみ) オペラ座の階段おりてゆくときのささやくような衣擦れの音
047:没(26〜50)
(蓮野 唯) 「会いたい」と気持ちを乗せて来た電波日没の街一人ではない
(ドール)日没に一人ぼっちで立ちつくす誰も私を攫いに来ない
(原田 町)数独なるパズルゲームへ没頭す青葉若葉に肩を凝らせて
(白辺いづみ) 日没の空すれすれに下手投げボールと愛が地平に溶ける
076:まぶた(1〜25)
(はこべ)まぶたには昨夜の夢がまだありて覚めやらぬこと願っていたり
(船坂圭之介)拠り処なき午睡のゆめに酔ひけるやまぶた戦き止まず目覚めぬ
(川内青泉) 子どもらがまぶたに浮かぶこの五年職退きし日の弥生の別れ
080:富士(1〜25)
(はこべ)親友の墓所尋ぬればあたたかき大きな富士に抱かれており
(みずき)富士湯とふ外湯回れば肩掛けを濡らす夕日がはや落下せり
(船坂圭之介)流転そのはかなさゆゑに冬の夜は膝を抱きて見る富士の夢
085:きざし(1〜25)
(ねこちぐら) この星の崩壊しゆくきざしとや雪降らぬまま冬は終わりぬ
(船坂圭之介)花になほ遠き弥生の風温(ぬく)し春のきざしのごときその風
(ふしょー) だれひとりいないおやしきおくざしきざしきわらしをおしむおはやし
(川内青泉)霰降り雨降り続く葉月の日春のきざしはいずこへか去る