題詠百首選歌集・その24

           選歌集・その24



009:週末(165〜189)
(わたつみいさな。) 嘘ばかり思い出してるまだそれでじゅうぶん泣ける週末の月
(David Lam)何もない週末がよい何かあつた金曜の夜を忘れるために
今泉洋子)携帯電話(ケータイ)もパソコンもなくひたぶるに君の電話を待ちし週末
(長瀬大) 退屈な週末だからうかつにもあいつのことを許してしまう
011:すきま(155〜180)
(Makoto.M)すきまより洩るる体温もあるだろう動物園は夜を錆びゆく...
(史之春風)からあげとたまごやきとの蜜月にすきまを空ける 夏はすぐそこ
(笹井宏之)からだじゅうすきまだらけのひとなので風の鳴るのがとてもたのしい
(あおゆき) なんとなくひとりのままできちゃったよ 好き、はすきまがあるぐらいがいい
015:一緒(132〜156)
(月原真幸) 一緒には行けないことを告げている後ろ姿の背中のライン
(逢森凪)手を繋ぎ一緒に眠ったあの夜の夢を見ながらまた朝が来る
(佐原 岬)一緒だと不幸になると言うのなら僕に不幸と恋をください
(内田かおり) 一緒とは言えぬ動線交わしつつ燕の二羽軒先に舞う
(兎六)切り裂いてしまった古いオーバーをピザのチラシと一緒に捨てる
(ハナ)一緒には見られぬ雨をあなたより先に浴びてる東京は晴れ
020:メトロ(103〜127)
(笹井宏之) いつのまに雲が生まれていたのだろう メトロノームのねじが冷たい
(みゆ) たおやかに狗尾草(えのころぐさ)は時刻む メトロノームのように揺れつつ
(稲荷辺長太) メトロとか気取って呼べば今僕が何処にいるのか分からなくなる
(月原真幸)不規則なメトロノームで刻んでるリズム 傷つけられたっていい
025:化(77〜101)
(佐原みつる)また化粧直しに立った友人をグラスの氷を鳴らしつつ待つ
(おとくにすぎな)化けそこなったタヌキのこともみてほしい赤いクスの葉降る降るとまる
(寺田 ゆたか) メドゥーサを振り返り見るわが未練こころも石と化してゆくなり
(aruka) 水のない河辺で夢を弔って化石の丘で風の音を聴く
(橘みちよ)有明の海に溺れし子の化身しやつぱのからだ日反りてゆくも
(みゆ)手鏡で白粉花(おしろいばな)の夕化粧 紅が今宵に色香を添える
032:ニュース(53〜77)
(天国ななお) 「本当に気持ちいいの?」と問い詰めたニュースソースは明かしたくない
(つきしろ) トーストもこがしてしまう朝にさえサクラサイタと伝えるニュース
(萌香)ニュースにもならないほどの日常を伝え合ってる今日もあなたと
(ぱぴこ)おかえりと迎えてくれているような地元なまりのローカルニュース
(みゆ)当確のニュース速報邪魔をする 録画タイムは薔薇を切りたし
(ももや ままこ) 今晩はニュースキャスターの口紅の色が変わったことまで気付く
(佐原みつる) 夕方のニュースを見るともなしに見る今日戻ってくる人のない家
033:太陽(52〜78)
(小早川忠義)太陽はジュリアン・ソレルの上ばかり照らすにあらず 人に青春
(夏実麦太朗) 太陽系地球日本云々と宛名書きたき年頃ぞ有り
(ぱぴこ) 太陽のタトゥー誰にも晒さない肌に沈めてステージに立つ
(素人屋) 太陽が地に降り注ぐ。木洩れ日を集めて咲ける鈴蘭の花
048:毛糸(26〜50)
(帯一鐘信) 切れそうな毛糸が叫ぶ眠れない夜に手紙をつむぐ雪の日
(ドール)極細の毛糸を使いゆっくりと何足も編むベビーソックス
(野樹かずみ) 母に会いにゆくなら毛糸のあやとりの赤い三途の川をわたって
(小春川英夫)恋を編む原料として毛糸玉が安売りされている12月
(すずめ) 編み棒に繰られておどる毛糸玉 小さき命の夢えがきつつ
077:写真(1〜25)
(行方祐美) 写真など残さぬために春は来ぬ桜のことば聞きに行こうよ
野州)正面を見ること厭ふ少年の写真まざまざ伸ばしてゐたり
(春畑 茜) はつなつの風よひかりよダービーの写真に勝ちし牝馬の駆くる
078:経(1〜25)
(船坂圭之介)死を一つしかと見詰めむ玻璃越しに般若心経唱へ春の日
(ふしょー) 紳士にはなれないけれど野獣にもなれない夜の般若心経
(春畑 茜) 心経を写すと墨をゆるやかに磨るこころあり料紙(れうし)をまへに