題詠百首選歌集・その25

 1週間ばかり前から、「079:塔」のところで在庫が24で止まってしまい、いっこうに先に進めずに少々ヤキモキしていたのだが、やっとこの関門を通過できた。もっとも、投稿サイトのトラックバック数が25に達したというだけで、誤投稿などのせいで実質は私の勝手なルールの「要件」を備えていない題もあるのだが、そこのところは、例によって目をつぶって先に進むことにしよう。

     選歌集・その25


008:種(180〜204)
(フワコ) 蒔く時期を逃してしまった花の種みたいに静かに年老いてゆく
(やや) そう君は早咲きの種まだ夏が来ぬ間に母の手からこぼれる
(橘みちよ)新しき教科書繰れば扉絵の「種まく人」の種ふりそそぐ
(癒々)種としてあなたのくれる一粒の植わった大地になれる翌日
012:赤(152〜176)
(笹井宏之) わたしからあなたへ移る人称のさかいに赤い花束をおく
(宵月冴音) 火の星の赤い砂漠に雪よ降れ怒り鎮める歌を包んで
(逢森凪) 愛されていない理由を数えては赤でしるしをつける正夢
(ハナ) プチトマトくらいさみしい赤い実を避けるあなたに恋をしている
(黄菜子)庭先を赤、青、黄花彩りて楽しげならん絵の中の家
016:吹(130〜155)
(理宇) 似合わない癖に明日を儚んで君は掠れた口笛を吹く
(描町フ三ヲ)蛇を呼べ 火照る心にひんやりと独りの夜は口笛吹いて
(カー・イーブン)快晴と告げては気象予報士が吹きつけている青のスプレー
(宮田ふゆこ)鷹揚な防音壁に吸わせてた吹奏楽部のうちあけばなし
(黄菜子)吹き曝す荒野(あらの)にヒース咲く頃にたどりゆきたし教会の道
021:競(104〜128)
(寺田 ゆたか) いにしへの希臘男子(をのこ)ら競ひたる広場にひそり紅き花咲く
(里坂季夜)眠っても眠りきれない夜が明けて夢の競演観る夢の中
(市川周) 薄幸を競いあうのが少女らの慣わしうすむらさきの瘡痕(そうこん)
034:配(52〜77)
(五十嵐きよみ)いつどこで使えばいいかわからないハートのAが配られてくる
(愛観)去っていく足音ばかり好きになる木香薔薇の散りゆく気配
(遠藤しなもん) 目配せでうなずきあえる距離が好き 見えないものを信じたくなる
(きじとら猫) 配られてずっと手にある切り札を使えぬままにゲームが終わる
049:約(26〜50)
野州)ゆふ昏に豆腐ひとつの鍋提げて果たせぬままの約束想ふ
(原田 町)婚約をほのかに告げて子は帰る大型連休雨の夕暮れ
(野良ゆうき) 約束を破ったことのないような顔つきでまた約束をする
(富田林薫)くらがりで約三分のあいじょうをそそぐ少女のすむまちのあめ
(五十嵐きよみ) 約束を交わせたらいい「春」というボッティチェッリの絵画の前で
050:仮面(26〜50)
(暮夜 宴)美しき仮面の下で感情の行き場を探す夜のマンドリル
(新野みどり)マスカラとアイシャドー付け仕事用仮面を被り会社へ向かう
(ドール) 透明で自分の素顔にそっくりに作られている仮面をつける
079:塔(1〜25)
(はこべ) 墓所訪えば五輪塔には春の陽が静かに萌えて並びおりけり
(船坂圭之介) 双の掌を合はすはざまに逝きし日の母の香がする春の佛塔
(行方祐美)傾ぎゆくバベルの塔か真緑のソーダくるりとまわす口調は
083:筒(1〜25)
(みずき) 筒井筒わがエッセーに顔をだす君いづくなれ 蝉しぐれ降る
(行方祐美)茶筒とはやまとことのは宇治の町きのう二人で歩いたような
野州)筒袖の縞のはんてん掛けられて忠治をんなに薄く笑ひぬ
(坂本樹)水筒のなかの水さえゆれているきみに手紙をとどけるために
084:退屈(1〜25)
(はこべ)退屈を楽しんでおるこんな日は歌のこころが一番似合う
(船坂圭之介)退屈のまま淫(ふけ)りたり山くだる風を一夜の黙と累(かさ)ねて
(行方祐美)退屈は貴い時の間と気づきたり一つのメールに夜を揺さぶられ
(此花壱悟)春の日の退屈が生むものもあり例へば君にメールするとか
(髭彦)閑居して不善は為せど退屈を覚ゆることの絶えて久しき
(駒沢直) 退屈は君の代わりにやって来て壁の模様を教えたりする
(坂本樹)退屈なわけじゃないのに雲の白みあげてついてしまうためいき