題詠百首選歌集・その28

 梅雨入り宣言の後、東京ははじめての本格的な雨。予報官も、すこしホッとしているのかも知れない。国会はまたしても安倍独裁の雲行き。なぜ思慮も経験もない浅はかな「独裁者」の思い付きがまかり通って行くのか、与党のだらしなさには呆れるしかないし、納得の行かないことばかりだ。
 題詠の在庫もなかなか貯まらない。最後の方の題も、23首くらいで足踏み状態。やっと096が25首に届いたと思ったら、案の定2重投稿と誤投稿で数を稼いでいたのだが、それには目をつぶって、やっと10題貯まったところだ。

      
           選歌集・その28


004:限(225〜249)
(黄菜子)限りなく流れゆく河とも思え朝な夕なに船が行き交う
(村本希理子)北限のあゆに遇はむと町を発つひとにみじかき文をたくせり
(りっと)限りなく夜は広がる石鹸の匂いが皮膚に貼り付いたまま
(minto)限りなく誰にも時間があるやうな錯覚をした若かりし頃
005:しあわせ(217〜241)
(みなと琳) しあわせの数を数えてみたけれどその度逃げてく指先掠めて
(砺波湊) 給食にプリンが出るたび「しあわせ」と名づけて一番最後に食べる
(霰)しあわせにはなれないなんて言いながらまなざしはもう微笑んでいる
(村本希理子)口にすれば消えてしまふと知つてゐた(ジンジャエールのあわはしあはせ)
(けこ) キンと沁みる青味と酸味歯に残す若い苺のようなしあわせ
(りっと) かたつむりがしあわせそうなかおをしてみしらぬひとのふとももにいる
024:バランス(101〜125)
(A.I) 栄養も(恋も)バランス。喉奥に詰め込みすぎたカロリーメイト
(わたつみいさな。) バランスが崩れたことに気づいてもあたしが歪めばいいと思った
(長瀬大) 完璧な栄養バランスなのですがあなたのいない朝ごはんです
(里坂季夜)またしても青いしっぽに裏切られバランス崩す梅雨寒の夜
029:国(78〜102)
(素人屋) 逢えないと知るためだけに降りてみた西武国分寺線恋ヶ窪駅
(橘みちよ)東京へ雪の国より出でてきて冬の電車に汗かきてをり
(霰)今はなき名曲喫茶で「冬の旅」のレコード聴きし国立の冬
(里坂季夜)半疑問形の応酬コロンの香下校ラッシュのホームは異国
(佐倉すみ)この国の輪郭なぞってゆくように小さな岬をあなたと歩く
030:いたずら(78〜102)
(寺田 ゆたか) いたづらに齢(よはい)重ねて彷徨ふも未だ見え来ず魂の置処(おきど)は
(星桔梗)愛情の裏返しだと嘯いていたずらしてる目が笑ってる
(振戸りく) いたずらとわかっていても出てしまうような着信音にしました
(aruka)シシリアの夏は少女の脚をして駆けまわる。それは神のいたずら
(花夢)真夜中がただいたずらに過ぎてゆくようであなたの静けさを抱く
(ひわ) まなざしもかけた言葉も何もかもいたずらだったことにしておく
(村本希理子)いたづらに長生きせし、と。友をらぬ卒寿の宴の祖父の葡萄酒
040:ボタン(51〜75)
(nnote) 頑なな少女の欠片ばらばらと撒いて見ている褪せないボタン
(稲荷辺長太)1階のボタンを押さずに乗っていた数十秒も寿命の一部
(つきしろ) かけちがいのボタンにきづかないふりで虹のおわりをながめていたの
054:電車(26〜50)
ダンディー被爆地に路面電車のゆうらりと広島の空赤く萌えたり
(ドール) なつかしいあの日の海へゆらゆらと路面電車で運ばれてゆく
(野良ゆうき)星ひとつ見えない夜の端っこで来ない電車を待っていたよね
(天国ななお) 乗り換えた電車の中に猫が居た 隣の駅で一緒に降りた
056:タオル(27〜52)
(ドール)お昼寝の小さな腕にタオル地のねことうさぎが笑っておりぬ
(すずめ)洩れそぼつ未練をぬぐうタオルにも仄かにそみぬ君のうつり香
(小早川忠義) ゴムひもに細工されたるバスタオル熟れ始めたる身体を隠す
(天国ななお) 私にはYAZAWAのタオル振り回わしロック口調で叱る父あり
(青野ことり)帰れない場所はまぶたの裏にあり頬に湿ったタオルのぬくみ
081:露(1〜25)
(みずき) 露地奥に熟れぬ柿もぐあの秋の記憶は今もつぶらに青し
(船坂圭之介)露草のむらさきにほふ日々にしてかの黄昏をわが思ひ居り
(川内青泉) 露の玉転がり落ちて洋服にすうとしみ込む朝の草取り
(本田鈴雨) 露くさの群れ咲く朝(あした)わが胸にともる灯の青なによりも青
096:模様(1〜25)
(行方祐美)どようびは花柄模様の傘を差すモネの絵葉書出すために差す
(畠山拓郎)空模様眺めて選ぶ休日は野球場にて太陽浴びる
(帯一 鐘信) 息継ぎの模様が並ぶ水面を高いところでみてる休日