税制についてのいくつかの問題提起

 税制について、これまでに何度かこのブログに私見を書いたが、1月くらい前にあらためて整理してみようという気になって、まとめてみた。実は、それをその後朝日新聞の「視点」に投稿したのだが、かなり時間も経ったので、多分載らないだろうと思い、このブログに載せることにする。
 朝日新聞の「声」には、ここ3年くらいの間に8回くらい掲載されたのだが、「視点」には何度か投稿したものの、1度も掲載されたことがない。内容の出来不出来は別として、両者の性格の違いもあるのだろうと思う。「声」はまさに「一般市民の声」だが、「視点」は「専門家の意見」あるいは「利害関係者の意見」という性格が強いように思う。税金については私は専門家ではないし、格別深い利害関係があるというわけでもない。だから載らないのが当然という気もしている。繰り言はともかく、以下その投稿したものをお目に掛けたい。


      税制についてのいくつかの問題提起

 

 政府や党の税制調査会において、税制改正についての論議が進められるのだと思うが、いくつかの基本的問題について、問題提起をしたい。

Ⅰ 基本的視点
 円熟経済、更には高齢化社会という今後を考えると、社会保障の充実等、政府として逃げられない財政需要が大きくなって来る。また、民間企業が「効率化」を進めれば進めるほど、政府、地方自治体等は、「不効率」な部分を背負って行かなければならない使命が大きくなって来る。したがって、今後の我が国を考えるとき、「小さな政府」という考え方を採ることは困難だと思われる。
 税には二つの目的があると思う。第一は、当然のことながら税収の確保であり、第二は、社会的公正の確保である。高額所得者や財産保有者に対する減税や、低額所得者に対する増税は、基本的には社会的公正に反するものだと思う。

Ⅱ 個別の税制
①消費税
 増税はやむを得ないと考える。「消費」は、自己の欲求を充たすための社会からの受益という一面を持っている場合が多く、それに対して課税されることは当然だとも言えよう。
 増税する場合、物によって税率に差を付けるのは理想ではあるが、現実には困難だろう。一つの試案として、最低生活に必要な消費(例えば生活保護費の水準)については非課税とすることが望ましく、例えば、定住外国人を含む住民にかつての地域振興券のような金券を渡して、最低必要消費の全部又は一部につき、消費税分をカバーすることは考えられないか。
所得税
 消費税の増税の場合には、社会的公正確保の観点からも、所得税の累進度を高める必要がある。かつて地方税を含む税率が80%を超えていた時期もあったようだが、現在は50%に抑えられている。これは余りにも低過ぎる。また、現在採られている資産課税の優遇措置は論外だと思う。なお、消費税による大衆課税がなされているのだから、課税最低限の引上げも考慮に値すると思う。
 以上の議論と切り離せないのは、所得の把握であり、納税者背番号制又はこれに代わるべき措置の導入による各種所得を一括した総合課税は必要不可欠だと思う。
相続税
 格差の固定化を避けるという意味では、相続税の役割は大きい。現行の基礎控除5千万円というのは高過ぎる。1千万円程度の相続でも、百万円やそこらの課税はすべきだと思う。ただ、換金困難な資産等の場合の猶予措置等は更に充実させる必要があろう。
法人税
 減税の主張もあるようだが、公正の観点から、私は基本的には反対である。ただ、配当課税をはじめとする高額所得者の所得税率アップとのパッケージで、法人税率を下げる余地も出て来るかも知れない。また、所得税とも関連するが、一定水準以上の給与は、企業の損金算入を認めないといった方策も検討に値するのではないか。

Ⅲ 中央と地方
 地方に仕事と財源を移譲すべきだという原則には賛成だが、国税地方税の制度上の区分が本当に必要なのか。基本的にすべてを国税(あるいは共通税)に一本化し、それを一定の方式で地方の固有の税収として配分するといった考え方を広く採用すべきだと思う。もちろん、地方自治体の選択による各種特例は認められて当然だろう。
 いずれにせよ、地域により税収の差が出ることは当然の結果であり、特に、これからの人口減少社会を考えるとき、一部の大都市への人口集中と財政力格差の拡大は、より深刻な問題となって来るだろう。そのために国による調整は不可欠だろうし、税収の配分方式も見直す必要があるだろう。例えば、現在の個人住民税等はすべて居住地の税収になっているが、これを納税者の意向により、ほかの自治体にも一部納税できるような方策は考えられないか。
 また、徴税機能が中央と地方自治体に分けられていることは非効率的であり、原則としてすべての徴税機能を国税庁に集約することも考えても良いのではないか。さらに、社会保険関係の徴収機能も国税庁に持たせ、内閣直属の「徴収庁」に衣替えすることも一案だろう。

 以上、こなれていないものも含め問題提起してみた。これらにつき真剣な議論を期待したい。