題詠百首選歌集・その33

 台風がやっと過ぎたと思ったら、今度は中越地震。忘れないうちに天災がやって来るこの頃だ。東京近辺は平穏無事だったが、被害に遭われた方々に、心からお見舞い申し上げたい。

<御存じない方のためにときどき書いている注釈>
 五十嵐きよみさんという歌人の方が主宰しておられるネット短歌の会に、2年前から参加しているのだが、勝手に思い立って、気まぐれな選歌をし、10月末に終了したところで「百人一首」を作ることにしている。歌の題は全部で100、25首貯まったところで選歌をし、10題貯まったらこのブログに載せるという原則にしている。ほかの方の歌を選ぶという、ある意味では思い上がった神を恐れぬ所業なのだが、全く私的な気まぐれな「お遊び」ということで、お許し頂きたい。なお、2年前に私がブログをはじめたのは、この選歌と百人一首がきっかけだった。そういった意味では、このネット短歌の会が私のブログの生みの親である。


     選歌集・その33


011:すきま(181〜206)
(砺波湊)本棚の一番上にずっとあるすきまのような人に出会った
(∬ベリアル∬)木洩れ日の影のすきまに生れし光 夏から始まる恋をしようか
(多田零) ほろ酔ひにきざすきまぐれ眠りたるをとこの爪にももいろを塗る
(ちえりー) むなしさは心のすきまに吹いてくる私が春を連れて来るまで
016:吹(156〜181)
(史之春風) かなしみと違う音色はありますか トランペットを吹き抜ける風
(村本希理子) 吹抜のある家に住みふきぬけて行くものたちを見送りてをり
今泉洋子)白妙の衣(きぬ)の風合ひくちなしをかそけく揺らす黒南風の吹く
(杉山理紀) 吹く風を蹴飛ばしながら降りて行く夏の海からひかりをあげる
(椎名時慈) 交差点行き交う人に吹く風を窓の中からぼんやり見てる
017:玉ねぎ(156〜180)
(萱野芙蓉)酢を染めて赤たまねぎはほどけゆくやがて真闇となる棚の上に 
(里木ゆたか) 玉ねぎのふくらみゆかむ芽を刻み求むるものを知りし夕方
(小籠良夜)玉ねぎの芽吹くくらがり廚(くりや)とは妻がひめごと孕めるところ
(miho)刻むだけ細かくなってく玉ねぎに束の間の無を味わっている
021:競(129〜153)
(霰)「競う」という言葉を棄てて透明な風の心地で街へでてゆく
026:地図(106〜131)
(霰)存在のかけらを拾いに地図広げまなざしだけで逢いに出掛ける
(わたつみいさな。)この場所にあたしがいないという証拠みたいに地図が捨てられており
(村本希理子)木蓮やどうだんつつじが目印の地図もて探す寺島眼科
(美山小助)グーグルの 地図を開きて 懐かしき 街の姿に 亡き友偲ぶ
(上田のカリメロ) 地図にないものの姿の美しさ 四季折々の空の雲たち
034:配(78〜102)
(逢森凪) 真夜中に配信される夢たちが明日をほんのりあかるくさせる
(黄菜子)巨石(おおいし)を同心円に配置せしストンヘンジに夏至祭の朝
(村本希理子)配達を終へしPIZZA屋のバイク音夜半の団地に長くひびけり
(繭)地方紙を配達しおえし少年のくらき部屋にて饂飩食む音
佐藤紀子) 心配をする役割を引き継ぎぬ息子の妻になりたる人に
035:昭和(83〜109)
(橘みちよ)終りなど思ひもせずに君の手をとりしは昭和ただなかの夜
(逢森凪) またひとつ昭和が消える往年の俳優逝きて時代は回る
(村本希理子)国長橋わたリて昭和町を過ぐ丸型ポストをさがし来たりて
(市川周)公園のベンチでみじかい夢をみる昭和を知らぬ猫に囲まれ
037:片思い(77〜101)
(おとくにすぎな)片思いしている耳のうずまきがホルンの音をさがしてうごく
(黄菜子)現し世のまた逢う日までの片思い白きカップの口紅ぬぐう
(ももや ままこ)散らばった記憶の断片思い出しパズルのピースを探し続ける
047:没(51〜75)
(ぱぴこ)世界史の予習復習没落の歴史ばかりが記憶に残る
(村本希理子)白薔薇は日没からの数刻をつよく匂へり夫の窓辺に
(橘みちよ)雲海の彼方に日没(お)ちて陰り増す雲のうへ行く天帝のごと
048:毛糸(51〜76)
(みゆ) あぜ道に土筆顔出す頃なりて 毛糸のセーター解き始める
(星桔梗) あの人に編んだ毛糸のセーターの残りで紡ぐ思い出は何
(nnote)差し出した毛糸の兎祖母の目に私は十の少女のままで
(ももや ままこ) 初雪で二人を結ぶマフラーの毛糸のほつれを指で押し込む
(村本希理子)羊毛にあらざる毛糸のセーターを編む手の影は狐のかたち
(本田あや)選ぶ毛糸の色すら違う君なので コーヒーミルクは入れずに渡す