題詠百首選歌集・その38

 お盆も終戦記念日も終り、いつしか8月も20日となった。一昨日だったか少し涼しい夜があったが、早速秋の虫がかぼそい声で鳴いていた。再び暑くなった今夜あたりはどうなのだろう。選歌の在庫も、やっと規定数(?)に達した。


        選歌集・その38


006:使(236〜260)
(moco)やさしさの使い方などわからないままでふたりの七月の夜
(∬ベリアル∬)赤い嘘 夜に伝わせ果てる夜は堕天使めいた憂いに満ちて
(黒田康之)『小間使いの日記』など見る夕立ちの悪意の中に降り込められて
010:握(212〜236)
(多田零)われの手を最後に握るのは誰の ほたるぐさ摘むゆふべとなりぬ
(瑞紀)いつのまにか小さくなりし祖母の手に握り鋏はまろく光れり
031:雪(105〜129)
(佐倉すみ) 雪の降る速度ですべて塗り替えて寒さは忘れることの代償
(うめさん)雪の日に生まれたる子を由紀彦と名付けたかりきと言ふ人のあり
044:寺(78〜102)
(つきしろ) 約束はついに果たされないままにあじさい寺で待っております
(素人屋)ゆっくりと流れる時を味わってひと口、真昼の深大寺ビール
(ひわ)石段をひたすらのぼりたどり着く 山寺は夏 風吹き抜ける
(カー・イーブン)死してなお燃えようとする星たちをなだめる雪の降る金閣寺
(月原真幸)寺町の路地で出会った黒猫の瞳の色の夜の手ざわり
(萱野芙蓉)野分き立ち風にほつるる髪のまに南蛮寺見ゆ緋の伽藍見ゆ
(おとくにすぎな)じいちゃんのあくびまじりのシンデレラ お寺の鐘が十二回鳴る
045:トマト(77〜101)
(黄菜子) 枝付きのトマトも並ぶ直送の市ひらかるる日曜ごとに
(小籠良夜)たれも知らずわれに孕みの徴(しるし)あり青く熟れたるトマト酸き夜
(素人屋) 音もなく夕日傾く 熟れ過ぎたチェリートマトを潰す間に
(A.I)細く火を絶やさぬままの台所でトマトソースが煮詰まる気配
(萱野芙蓉)罪もたぬ赤もありけりふるふると朝摘みトマトのゼリーをすくふ
佐藤紀子) キッチンに立つ日暮れ時まな板に載せたる冬のトマトが光る
(里坂季夜) 稲妻と冷やしトマトと黒ギネスどこもへ行かぬ夏を飲み干す
046:階段(76〜100)
(花夢)逃げようとしたってひとり蝉の音がこだます夏の非常階段
(小籠良夜) いづくへと誘(いざな)はるるか宙吊りの階段へ踏み出すもわたくし
(佐原みつる)階段を下ればそこにある海に夏の踵を沈めてしまう
(里坂季夜)死んでゆく脳細胞とおにごっこ捕まらぬよう夏の階段
057:空気(51〜75)
(黄菜子) はつなつの空気薫らせおおらかに泰山木は花をゆるます
(百田きりん)風船のなかの空気がゆっくりとおうちに帰るまで世話をする
072:リモコン(26〜51)
(みゆ) 今日もまたリモコン仕掛けの時計草 喜哀の中で生かされている
(青野ことり) 指先でリモコンボタン押すほどのためらいさえもなくて 震える
(yuko)目に見えぬものを信じてみたくなるたかがリモコンされどリモコン
(振戸りく)リモコンという名の棒で操作する祖父のテレビは14インチ
073:像(26〜50)
(本田鈴雨)ほそき身はガラスケースに立ちつくす 玻璃のこころの阿修羅像かも
(春畑 茜)いかるがの風の緑をゆきゆきて弥勒の像にふたたび会はむ
(新井蜜) モアイ像の視線の先はふるさとの銀河を包む暗黒星雲
(みゆ)クロッカス 愛した事を後悔し残像だけを抱きしめている
(青野ことり)網膜に像を結ばぬ人のこと文字のすきまに組み立ててみる
(五十嵐きよみ)別れなど想像できずにいたころの花束、ワイン、千回のキス
(澁谷 波未子)君と吾の将来像を想ひつつ写真をとりぬ 今日は記念日...
(村本希理子)ともに見し仏像いくつ人間の父と娘の時間はみじかし
(富田林薫)おもいきり飲みほすコーラ 空きびんにとりのこされる夏の残像
074:英語(26〜50)
(原田 町)英語では何といふのか美しき国の首相がテレビに微笑む
(小春川英夫)フォルダには英語のスパムがあふれてて、愛の言葉もぼやけてばかり
(aruka)見知らぬ国のことばを話す人形が英語で書かれたほんを抱いてる


            *  *  *  *  *

 どういうわけか、昨日あたりから、項目別でこのブログの一覧表を開くと、「i ページがみつかりません」というコメントが出て来るようになった。いろいろやってみると、各一覧表の最初の日に、全部その表示が出るようだ。お構いなしに日付のところをクリックすれば、ちゃんと内容が出て来るので、何の支障もないのだが、その表示に困惑してしまう方がおられるかも知れない。どうかその表示は無視して操作して頂きたいというのがお願いだ。もう一つ、その理由と消去法を御存じの方がおられればお教え頂きたいものだ。