参院選雑感(スペース・マガジン9月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。実は、選挙の直後にこのブログに載せたものに肉付けしたものなので、それと重複している部分も多い。(これは同誌の編集者と読者の方には、内緒の話・・・。)
 
 折しも、昨日安倍総理が、「洋上給油」に政治生命を賭けるという類の、内閣総辞職もあり得るような発言をされたようだ。退路を断ってその意気込みを示したと言えば恰好良いが、対外的なジェスチュアは別として,洋上給油の継続が内閣の命運を賭けるべき最重要課題かどうかには、大いに疑問がある。意地悪く言えば、退任の潮時を逃した安倍さんが八方塞がりになり、あえて捨て身の勝負に出た、もっと意地悪く言えば、投げ場を求めたと言えそうな気がしないでもない。ややクールに言えば、参議院で否決された場合の衆議院での三分の二再議決のための布石を打ったという面もあるのかも知れない。



       [愚想管見] 参院選雑感       西中眞二郎

 参議院選挙が終わって1月以上経つ。与党の記録的大敗で、ひとまずホッとしたところだ。それにしても、先の総選挙のときの与党の圧勝との落差は何だったのだろう。小泉さんと安倍さんに基本的にそれほど大きな違いがあるとは私には思えないのだが、「前回の郵政選挙の際に自民党に勝たせ過ぎた」という選挙民の「反省」があり、現に数の力を頼りにした強引な国会運営などが国民の反感を買ったことに加えて、年金をはじめとする失政、仲良し内閣の閣僚のたび重なる失言や不手際等々により、その「反省」が予想以上の激しい結果になって表れたということなのだろうか。
 安倍さんが政権を握る前後、何度か安倍批判を書いた記憶がある。「識見や経験が不十分なままで宰相の座に就いたのは安倍さんの不幸だ」という趣旨のことも書いたような気もするが、そのことがあからさまに露呈されたと言っても良いだろう。もっとも、安倍内閣について私の予想が外れたのは、安倍さんが意外に実行力があり、「実績」を上げたということだ。国民投票法の制定、教育関係諸法の改正、集団的自衛権の懇談会の発足等々、どうしてなかなかの「実績」である。「戦後レジームからの脱却」という安倍さんのスローガンは、ある程度実現したとも言えるだろう。私は、決してこのことを評価しているのではなく、安倍内閣の最大の「罪」だと思っているのだが、それにしてもかなりの課題を「達成」したということは否定できない事実だろう。それに比べれば、「年金」や「失言」は、比較的マイナーな失政だったという気がしないでもない。
 今回の選挙結果が、その「マイナーな失政」を主因とするものだとすれば、今回の選挙の結果を手放しで喜んでいるわけにも行かない。私の目から見て、安倍政権の危険性は「戦後レジームからの脱却」という彼の基本姿勢自体にあり、数を頼りにした強引な国会運営、それに無定見に従った与党のだらしなさにあったのだと思う。今回の選挙結果がこれらに対する批判から生まれたものだとすれば、ある程度安心できるのだが、果たしてそう素直に受け止めて良いのかどうか不安が残らないでもない。選挙前の報道によれば「安倍人気は低落したが、小泉人気は依然として高いものがある」ということだったようだが、これも不安材料の一つである。世間の目が「マイナーな失政」の方に向かっており、小泉さんの「思い付き的・国家主義的・独裁的改革路線」を依然として懐かしんでいる人が多いのだとすれば、次の選挙までに世論がどう揺れ動いて行くのか、心配の種は尽きない。
 もう一つ、民主党の躍進は良いとして、いわゆる革新政党の凋落も不安要素の一つである。言うまでもなく、民主党は幅の広い寄合い世帯である。憲法問題をはじめとして、どこまで「抵抗勢力」としての歯止め機能を貫徹できるのか、将来に不安が残らないでもない。
 そんな不安要素が残るとは言え、また、国民の選択の動機がどこにあったにせよ、安倍内閣の独裁的、国家主義的傾向に「ノー」という結果が出たこと、そして、「悪しき改革」が進めにくい国会構成になったことで、ひとまず祝杯を上げたい心境である。(スペース・マガジン9月号所収)