題詠百首選歌集・その50

 高校のクラス会で3日間西の方へ行って来たら、在庫が大分貯まっている。ゴールが近いせいもあるのかも知れない。もっと後の方にも、私が勝手に決めたルールの在庫数(25首以上)が貯まっているものもあるのだとは思うが、少し風邪気味で力が入らないということもあり、10題選んだところで、今日は一応これで終りにしておこうと思う。


         選歌集・その50


019:男(177〜201)
(内田かおり) 田の端の草を刈りつつ男ひとり土よりも濃き汗を光らせ
(水野彗星) 答案で折ったヒコーキ飛ばしながらおしえてもらう男のヒミツ
(大辻隆弘) かぎりない遠さがそこにあるやうに男傘女傘のあはひの雨よ
(佐藤羽美) 木漏れ日を飲み込むように歌うなり男女混声合唱団は
(寒竹茄子夫) 男鹿半島風のゆくへを聴きゐたり荒星拉ぐうみどりのこゑ
(K.Aiko) 営みをかさね深さはますばかり 男 夫よ わたしと眠る
033:太陽(129〜159)
(みずすまし)湖の底に沈んだ太陽の赤色冴えて水面(みなも)に燃える
今泉洋子) 人参とブロッコリーを太陽と森に見立てて夕餉愉しむ
(やや)主待つ犬の背中にやわらかな夏の終わりの太陽がある 
(西巻 真) 太陽はメデューサの眼を開きしか にわかに雲の影退きぬ
034:配(128〜153)
(大辻隆弘)ゆきぬま、とあるはずのない場所を呼ぶ或いはとほき配流のこころ
(みち。)今日もまた誰かが配った紙きれに生きる範囲を決められている
(小埜マコト)街角で配られている青色のビラに小さく「好きです」と書く
(内田かおり) 愛しみのひとつかけらを配られて一輪咲きし紅き小薔薇よ
(やや) モノクロにひびく子の声ききながら独居世帯の配食を待つ 
(近藤かすみ)日の暮れに老いし人らを配りゆくワゴン車が千里丘陵走る
035:昭和(135〜162)
(大辻隆弘)昭和荘とふかすれたる文字は見ゆ雨に濁れる沼のむかうに
今泉洋子)百円のお好み焼き屋の湯気の奥昭和がぽろり転がつてゐた
(内田かおり)モノクロの昭和を思う淋しさよ戦うものを常に見ており
(近藤かすみ) なにげなく人の年齢数ふとき昭和八十二年と思ふ
037:片思い(127〜154)
(大辻隆弘) 夏服の袖よりのぞく白き腋、片思ひしてるのだと気づく
(川鉄ネオン) いちにちに一度はしてるよ片思い今朝はティッシュをくれたあの娘に
(橋都まこと)太陽に片思いしてる百万の向日葵(ひまわり)たちが作った迷路
(やや) 片思いしていたあの日の裏庭のブランコ揺らす。秋風がほら
(近藤かすみ)いつまでも片思ひでゐる安寧になじみていまや腐女子となりぬ
038:穴(127〜152)
(史之春風)靴下に穴のあいてるひとでした翌朝それに気がつきました
(みずすまし)いにしえの匠の技や穴太積(あのうづみ)苔むす石の野面(のずら)麗し
(紫歌) 会うたびにジーンズの穴増えてをりキオスクでけふも牛乳飲むひと
(あいっち)この部屋のどこかに穴があいていてやる気やピアスをときどき失くす
(近藤かすみ)穴だらけのオゾン層から降つてくる災ひ避けむと黒日傘差す
(内田かおり)夕凪にひた立ちおればのぞき見る裡なる穴の暗き蒼さよ
039:理想(127〜154)
(大辻隆弘) 両の肘を窓辺についてゐるあさは流るる雲も理想論めく
(川鉄ネオン) 理想など追わないことが理想的冷たい水をすっと飲み干す
今泉洋子)現実と理想のあはひに生ありて粘華微笑(ねんげみせう)の泥の花咲く
(空色ぴりか)"理想的な人生"を語るエッセイはBOOK OFFでも持て余されて
(あいっち)憎まない、辞めない、自分を見捨てない理想のわたしはまだまだ遠い
(近藤かすみ)朝光(かげ)に墨痕それぞれ濃くうすく三十五枚の「理想」が並ぶ
(内田かおり)青空にとどまる雲ののどかなる色を理想の白と仮定す
040:ボタン(127〜153)
(川鉄ネオン) 間の抜けた着メロふいに鳴りだして止まる指先最後のボタン
今泉洋子)アイロンはボタンダウンの群青のあなたの海をすいすい泳ぐ
(近藤かすみ)エレベーターの階数ボタン押すひとの爪が綺麗だ さよなら京都
(内田かおり) 冷静に話しつ君はゆっくりと第一ボタンを外しておりぬ
064:ピアノ(76〜104)
(佐原みつる)アップライトピアノを壁際に据えてまだ訪れを待つというのか
(ME1) 鐘の音振り注がれて染みる陽にあなたと弾いたピアノはカノン
(大辻隆弘)闇のなかを落ちゆくひかりの瀑布みゆアップライトピアノ覗けば
(椎名時慈)蓋をしたピアノは何か待つように瞑想してる黒い姿で
(描町フ三ヲ)泣いたことばれないように自転車はゆっくり蛇行ピアノの帰り
佐藤紀子)もう誰も引かぬピアノの上に置く家族揃ひし頃の写真を
(岡元らいら)漆黒のピアノにひとつ残る指紋わたしそろそろ歩き出さなきゃ
(黄菜子) プレートに小さく音符書き入れて坂の途中のピアノ教室
今泉洋子)春待たず花は咲きたり子の部屋にピアノを聞きてゐしチューリップ
065:大阪(76〜103)
(つきしろ) やわらかい大阪訛りを口にするそのくちびるをみつめていたい
(大辻隆弘)大阪は天の網島はしりがき堕ちようとして落とされてゐる
(素人屋)ふるさとと呼ぶには遠い大阪を「父の出身地」とだけ記す
(nnote)大阪は雨でネオンの渦の底ことばに色がついている街
(黄菜子)大阪の消印あわく残りたる手紙開けば夏雨匂う