題詠百首選歌集・その51

 昨日に続き選歌をしたら、結構在庫が増えていた。最終題もやっと50首を超え、第2巡終了といったところだ。もっとも、完走者が100人に達するのかどうか、百人一首を作る予定との関連もあり、少し気になるところではあるが、おそらく皆様のラストスパートで、100人を軽く超えることになるのだろうとは思う。
 風邪の方、先ほどお医者さんに行って薬を貰って来たら、それだけで少し良くなったような気がして来た。いずれにしてもたいした風邪ではなさそうだが、今日はタバコが不味いなどと思いながら、咳をしながらタバコをふかしているところだ。


      選歌集・その51


008:種(231〜255)
(あんぐ) 種のないスイカのようにうろたえて夏の日差しがまぶしく匂う
(あいっち)さよならののちの指さき濡らしつつ種なし葡萄を皮ごと食べき
(萩 はるか) アボガドの種を小犬がくわえてくシーツを洗う日のベランダに
036:湯(130〜154)
今泉洋子)湯布院の風呂につかりて冬天の星の檻から抜け出せずゐる
(みずすまし) 湯上りに浴衣着せられ駆け出した夜店の明かり夏の夜の夢
(内田かおり)柔らかき静寂のとき風炉釜の湯はつつましく音を飲み込む
(やや) 曼珠沙華のひらく夕ぐれ羊水の湯より出でたる命を掬す
(あいっち)湯を入れて白いカップをあたためるアッサムの葉のひらきゆく午後
(夜さり)濃き霧に面影すらも手繰れない湯滝・湯の湖の秋の入り口
052:あこがれ(103〜127)
佐藤紀子)あこがれはあえかに紅き合歓の花ほわりと灯り天に向きたり
(大辻隆弘)あこがれてなかつたと言はば嘘になるだらうか女生徒だつたあなたに
(岡元らいら) あこがれは失われたまま茜色その光芒を追いかけている
(遠山那由)あこがれるなにものもない午前6時のネット喫茶で目覚めぬ希望
(霰) 苺ジャムの瓶に隠したあこがれをそっと取り出す土曜の昼間
053:爪(101〜125)
佐藤紀子) ふと見れば爪の形も我に似て長女はすでに中年となる
(大辻隆弘)深爪をしておく、秋にふる雨が冴えた痛みに連なるように
(橋都まこと) その昔バンドを組んだ仲間たち思い出す夜はギター爪弾く
今泉洋子) 別れたる悲しみ残る車中より爪の形の月は見えにけり
(animoy2) 爪をかむ思春期の揺れひらひらら光と影を交互に映す
066:切(76〜101)
(智理北杜)夏の夜はビールもいいが冷酒を青地の七宝切子でいきたい...
(おとくにすぎな) 切りぬいた子馬の脚はろうそくが消えても走りつづけるかたち
(nnote)切りすぎた前髪のこと僕という女の子のこと思う秋の夜
(黄菜子)子を無くせし母はからっぽ空の壷抱いて歩まん夏の切り岸
今泉洋子) 切り際におのづと票を読み得たり選挙加勢も三日経ぬれば
069:卒業(76〜100)
(寺田 ゆたか) 卒業生三人(みたり)並びて地震(なゐ)ありし棚田の村も遅き春来る
(桑原憂太郎) 卒業歌うたひて去つた生徒らの残した上靴ゴミの日に出す
佐藤紀子) 濡れ落葉を卒業したる夫なり 時に私を邪魔さうにする
(やすまる)ぐらぐらと螺旋に下るばねづたい卒業のない春をふらつく
081:露(51〜78)
(ワンコ山田) 微熱ある指先で結露温める相合傘は消されてばかり
(おとくにすぎな) 露草のはなびら溶けてすじ雲の羽毛ほどけて青だけの場所
084:退屈(52〜78)
(aruka)退屈な季節のあとの砂浜にかぞえきれない雨粒が舞う
(大辻隆弘)退屈が足もとに這ひこんでくる事務椅子に脛たたせてをれば
(百田きりん) 乗客が退屈そうにしてること 新幹線に内緒にしたい
佐藤紀子) 療養の退屈しのぎに始めしが短歌(うた)との縁と母は言ひゐき
(やすまる)望月の照らすベランダさめきった夜に凭れて退屈を喰う
085:きざし(51〜78)
(ドール)愛らしきざしきわらしの待っている時の止まった古里の家
(大辻隆弘)白茶けた秋陽はさして紙函のやうな空白感はきざしぬ
(青野ことり) 瞬きの刹那によぎる淡い影きざした疑心押し込めて 空
(橘みちよ) 幼子のこころにきざしし悲しみを知ること無きをひたすら願ふ
佐藤紀子) 回復のきざしの見えて今朝母はお粥ひと椀食べてくれたり
(萱野芙蓉) 雨あがるきざしも見えずこともなき部屋といふかにバターはにほふ
100:終(26〜53)
(春畑 茜)終了の笛は未だなりロスタイムあと一分が永遠(とは)のごとしも
(原田 町) やがて終はる時のあるらむ戦没者追悼式にひとびと老いて
(小早川忠義) 「やらなけりゃ終わらないよ」と笑ひつつ部下に残業やらさむとせり
(ももやままこ)一昨日の最終回を見逃して勝手なハッピーエンドもいいか
(大辻隆弘)終らうとしてゐる雨があかるんで見えてた、朝になるまへの窓
(yuko)名前さえ知らないままに終わる夏こうべを垂れて果てる向日葵
佐藤紀子) 終点は明日かも知れぬ人生に今日は明るき紅葉を見る
(富田林薫)終わらないじかんのなかに一瞬のあなたのような栞をはさむ