題詠百首選歌集・その54

        選歌集・その54


021:競(180〜204)
(内田かおり)台風は未だ高空舞うらしき競うごとくに雲走り行く
(はせがわゆづ)次の角まで競争ねと駆け出して夕焼け空を二人占めする
(animoy2)競うことやめたときから果てしなく空は青くて海は広くて
(萩 はるか)咲き競う千の花びら秋風をしなやかに受け揺れる秋桜
045:トマト(127〜151)
(翔子)熟れトマト押して潰して種を出すいつかの恋の轍のごとく
(霰)透明なトマトの赤は雪の日の硝子みたいにざらりとひかる
(近藤かすみ) ほんたうのことを語ればせつなくて薄切りトマトを冷麺に乗す
(やや)わしづかみにして欲しかった完熟のトマト朽ちれば背中から冬
058:鐘(101〜126) 
(みずすまし)アドベント指折りかぞえ組鐘(カリオン)の清けし音色夕べに響く
(翔子) 萱葺きの家が並んだ道隔て鐘楼もあり幼女の如く
(近藤かすみ)紫のちひさき鐘のかたちしてホタルブクロは夕風に揺る
059:ひらがな(101〜125)
佐藤紀子)ひらがなの「ひ」の字の作る壷のなかため息ひとつ閉じ込めておく
(紫歌) なにもかもくすんでみえる昼下がりへのへのもへじのひらがなかなし
(近藤かすみ)「かすみ」とふひらがなの名のやさしさにまたの一生(ひとよ)を得たる心地す
(霰) ひらがなで書いたことばに爪先ではかるくらいの想いをのせる
061:論(101〜125)
(佐倉すみ)そうやってまた飛躍させ茶化すなら小論文でも書いてなさいよ
今泉洋子)結論を出さない君の曖昧な性のごとくに秋雨は降る
(詩月めぐ)結論を出すには二人早過ぎて片手で足りる想い出の数
071:鉄(78〜106)
(智理北杜)大堰川を渡る秋風そに乗りて鉄漿蜻蛉(はぐろとんぼ)がゆらめいており...
佐藤紀子) 鉄板に肉を焼きつつ乾杯す もうすぐカルビが食べごろになる
073:像(78〜102)
(つきしろ)ハチ公の像にも屋根をつけたいと君の帰らぬ厨に思う
(おとくにすぎな)冬空に線香花火の残像を焼きつけている枝のひろがり
佐藤紀子)「あの人と結婚したら今頃は・・」わが想像に終はりはあらず
(橋都まこと)石膏像数多並びし真夜中の製図室にて烏口研ぐ
(黄菜子)西窓に聖母子像をたたしめて夕光(ゆうかげ)はその背を守りたり
074:英語(78〜103)
(萱野芙蓉) 母国語をいくさの中に置いてきたフランチェスカと英語で話す
佐藤紀子)英語では言へぬ心のたゆたひがほんの少しの沈黙となる
(素人屋) 放課後へ駈け出す心 金曜の六時間目の英語の授業
(黄菜子)あかねさす昼の眠りに英語もて道を訊きたり迷子の吾は
(animoy2) 英語ではこぼれ落ちたるニュアンスを国際電話ぶちまけている
(兎六)エリーゼという子になってナンシーの鉛筆借りる英語教室
075:鳥(76〜100)
(椎名時慈)落ちるのは怖くないのか海原を休むことなく渡り鳥飛ぶ
(文月 万里)連なりて飛べる鳥よと見上ぐれば秋立つ風に連凧の舞う
090:質問(52〜76)
(ワンコ山田)回るたび繰り返される質問のうしろの正面 君はもう居ない
(橋都まこと) 「どうして?」と質問せずにいられずに神にぶつけた十五の真夏