題詠百首選歌集・その56

 ゴールが近付いてペースが上がって来たのか、昨日に続いて在庫数が規定の数(私が勝手に決めたルールで、25首以上のもの10題)に達した。これからは、かなりのハイペースになって来るのだろうし、また、それを期待したいところだ。


           選歌集・その56    


010:握(237〜263)
(はせがわゆづ)約束を破る毎日後ろ手の握りこぶしをひたすらに待つ
(近藤かすみ)握られぬままの吊り革三本が電車のカーヴに合はせて揺れる
(鮎と銀杏)澄み透る夏の摩周湖 精霊の風の手握る縁(えにし)はありや
(小野伊都子)ちょうちょでもつかまえるような手つきしてあなたがそっと握るおにぎり
(平岡ゆめ)おむすびの塩の加減と君の手の握り具合がまだ掴めない
063:浜(101〜127)
(黄菜子)サンダルの形に灼けた足洗ううっすら秋の来ている浜辺
(みずすまし)朝焼けの漁場に響く浜唄が風に流れてかすかに聞こゆ
076:まぶた(77〜101)
(橋都まこと)盲ひたる人の心に添いたくてまぶた閉じれど長く続かず
(こはく)わからないままがよかった夕焼けが染めるまぶたをぴりりとはがす
077:写真(77〜109)
(川鉄ネオン) 青い日の写真棚からこぼれ落ち記憶の散歩に午後を費やす
(つきしろ) まだ青いレモンの汁を飲み干して卒業写真は抽斗の奥
(黄菜子)一葉の写真のごとき静けさに白猫(はくめう)は背を立てて居たりき
(あみー)思い出も写真もちょっとピンぼけな方が素敵なことだってある
078:経(76〜103)
(描町フ三ヲ) 少し前まではなかった未来図にあなた経由でたどり着く町
(黄菜子) 夏を経て秋に至れる樹の声の色深まるを聴く風の間に
079:塔(76〜102)
(萱野芙蓉)オフェリアの死に顔ながれ風ながれ浄らにふかき塔のへの空
(睡蓮。) 君と行く自転車道路塔のある景色が二人おだやかにする
(椎名時慈)少しだけ猫背になって問いかける父によく似た「太陽の塔
(黄菜子)見はるかす塔のめぐりに口ひらくガーゴイルたちの耳は尖れる
(文月万里) 縄金塔の夜祭に来て生徒らと鐘をつきおり明日は帰国日
080:富士(76〜101)
(萱野芙蓉)漂泊をなし得ぬ眼には山肌もおぼろにかすむ西行の富士
(素人屋)幼い日祖母と通った銭湯の富士山の絵はいつだって晴れ
(黄菜子)富士に立つよろこび伝うEMAIL東雲の空添えてとどきぬ
093:祝(51〜79)
(ワンコ山田)視界から消えて祝福されていて紙ひこうきは帰れないまま
094:社会(52〜78)
佐藤紀子)お茶くみと灰皿洗ひの日々なりき 社会人にはなりたるものの
(animoy2)弱きひとに優しき社会望みつつ弱くあること拒む我あり
096:模様(51〜78) 
佐藤紀子)空模様怪しくなりて海よりの風がポプラの葉を鳴らしゆく
(逢森凪)あのひとにかわいいひとと呼ばれたく花柄模様のスカートを買う