題詠百首選歌集・その57

ゴールまで10日を切った。最終題のあたりは、まだ3巡目の75首に届かない。これからのゴールラッシュが、楽しみのような怖いような心境だ。

      
          選歌集・その57    


004:限(274〜299)
(紫歌)限りある生だと思へばなにもかも愛しくなりぬ一日(ひとひ)始まる
(近藤かすみ)想念は際限もなく広がりてあかとき夢の沙漠をあゆむ
(寒竹茄子夫)埒もなき空想したき秋の夜は無限軌道の鉄路に塵積む
028:カーテン(156〜180)
(あいっち)窓際に海の色したカーテンを垂らして夜更けの魚(うお)になろうよ
(夜さり)カーテンを揺り返しくる微風あり赤子の産毛光らせながら
ひぐらしひなつ)カーテンのゆるきドレープ巻きつけて叔母は振り向く春のさなかを
048:毛糸(127〜153)
(みずすまし)吹く風に金木犀が混じるころ毛糸編みだす母思いけり
(近藤かすみ) 子のために編みし毛糸の残り綛畳の上にひしやげてをりぬ
(瑞紀) 青色の毛糸選びぬ<ベゼ>という響き覚えし年の初秋に
082:サイレン(76〜101)
(黄菜子)サイレンはただ音として過ぎゆきぬ旅の窓辺のサフィニア赤し
今泉洋子)サイレンと夕焼けこやけが役場より流れて終る村の一日
083:筒(76〜101)
佐藤紀子)竹筒に水引草を活けこみて茶室に秋の野の風を呼ぶ
(animoy2)水筒を持っていくよな親しさで暮らし始めた川沿いの家
091:命(52〜82)
(橘 みちよ) みづからの命終はるを知らぬまま猫は逝きしか轢かれ斃るる
(青野ことり) 哀しげにゆがむ口もと想うとき命令形で言えない弱気
佐藤紀子) 「命などいくつあっても足りない」と働きざかりの息子が笑ふ
(ワンコ山田)血に染まる記事に挿まれ押しばなの花の命はいつまででしょう
(黄菜子)革命の記憶薄れし港町華やかにカリヨン聞こえきぬ
092:ホテル(51〜78)
(青野ことり) 灯のともる窓を数えてみあげればホテルの影は舗道に伸びる
(田崎うに)予約などなくても今日のパンを焼くポポロアホテルに差し込む日差し
(上田のカリメロ)異国にて泊るホテルのカフェテラス 隣に座る瞳麗し
(黄菜子)ゼラニウム窓辺をあかく彩りてホテルマロニーの朝あけ易し
(おとくにすぎな) すきまから来る朝を分け合いましょうホテルの鍵をプリズムにして
095:裏(52〜76)
(五十嵐きよみ) 裏向きのカードの中の一枚に彼女によく似た女王がひそむ
(青野ことり) もう帰らなくていいよと見送った紙ヒコーキの裏はおもいで
(おとくにすぎな) 裏門のかなたをとおりすぎる歌 ロバのパン屋は眠りを運ぶ
097:話(51〜76)
(蓮野 唯)いつの日かあなたに話し聞かすため手紙のような日記をつける
佐藤紀子)日本とのスカイプ電話を切りしとき俄かに広し太平洋は
(佐原みつる) 週明けに改めますと言い置いて冷たく冴えた受話器を戻す
(animoy2) 話すことは空気の中に溶けてゆき在ることのみが不可欠になる
(ワンコ山田)眠れない子の寝返りで続く旅おとぎ話は夜つくられる
098:ベッド(52〜78)
(富田林薫)エンジェルに逆らうようにめをとじてベッドから垂らす足のつめたさ
(五十嵐きよみ)少しずつこの結論に慣れてゆく明日にはベッドカバーを替えて
(佐原みつる) 寝室の隅に置かれた新しいベビーベッドの木枠に触れる
(ワンコ山田) 神様に禁じられても図書室をベッドに持ち込む冬の雨の日
(おとくにすぎな) 研修は笑いあってた記憶だけ二段ベッドの上と下とで