題詠百首選歌集・その60

 最終題が、やっと3巡目まで来た。題70の投稿数が135だから、このあたりが最終的な完走者の数になるのだろうか。(作品数は、いずれも主宰者サイトに表示されたトラックバック数。誤投稿や二重投稿もあるから、実数と同じとは限らない。)
 ゴールまで今日を入れてあと6日、ランナーの方々のラストスパートを期待している。考えて見れば他人事ではなく、私の選歌もラストスパートをかけなければならないのだが・・・。



      選歌集・その60



025:化(177〜201)
(しろ)化粧直しに鏡にならぶ隣席の社員とはなす顔を見ぬまま
(萩 はるか)琥珀色に自我は固まり過ぎた恋の化石でおんなは身を飾るのか
(寒竹茄子夫)古代竜の化石組み立てゐる夜の星のひかりはいま届きたり
032:ニュース(154〜178)
(K.Aiko) お互いの体温つたえ握りあう 手と手 ニュースは明日(あした)の天気
(しろ)ローカルニュースに映る人面大根をながめて今日のひとひを終へる
(David Lam)人食いの鮫捕獲とふニュース見る鮫の瞼は閉じられてゐた
(木下奏)まるでそうニュースのような日々だから別のチャンネル気になっている
(moco)不機嫌な顔して笑う朝方のニュースキャスター水色の服
(寒竹茄子夫)ニュース聴くラジオも切つてひと恋し猫の肉球もてあそびをり
074:英語(104〜130)
(佐藤羽美)薄闇が初級英語のテキストに染み込む冬のカルチャーセンター
(近藤かすみ)シケ単が豆単を凌駕する日々に学びし高校英語遥けし
今泉洋子)われは短歌(うた)夫は英語とそれぞれの秋の夜長を愉しみてをり
(岡元らいら) いつまでもかなしい響きが残るから今日も英語でさよならを言う
(瑞紀)ビューラーをしまい少女は英語IIのテキスト膝の上に広げる
(木下奏)デタラメな英語を喋っているキミに恋したワタシはローマ字になる
075:鳥(101〜127)
(近藤かすみ) 朱(あけ)の色けざやかに立つ大鳥居の脚の傍よりバスに乗り込む
今泉洋子) 戦場の父の記憶を語り継ぐ葉月の空に鳥影は過ぐ
(里坂季夜)まぼろしドードー鳥とかけっこをしているだけだった20代
081:露(79〜107)
(素人屋)今朝早く生まれたツマグロヒョウモンの翼を草の露よ濡らすな
(逢森凪) 蜘蛛の巣に滴る朝露 その中のひとつひとつに虹が生まれる
(黄菜子) 朝露に足裏(あうら)ぬらして戻り来し白猫(はくめう)の目の細きひかりよ
(上田のカリメロ) 日本には美し言葉残りけり 寒露の時と二十四節気
(A.I) 朝露を集めて醸す酒のごと手に入れがたき恋ひとつあり
(オガワ瑠璃)朝露が光るハーブの葉にみとれ今日はこのままそっとしておく
085:きざし(79〜109)
(おとくにすぎな)あたらしい星の生まれるきざしへとすこしかたむく秋の触角
(黄菜子)気象図に冬のきざしの顕(た)つ見えて初雪降ると予報士は言う
087:テープ(77〜101)
(遠藤しなもん)その昔カセットテープに吹き込んだ青春が今、廃盤になる
今泉洋子)ビデオテープまた巻き戻す佐賀北高校(きたこう)の八回裏の逆転シーンへ
088:暗(77〜101)
(遠藤しなもん)ときめきは暗がりに目が慣れるまで あなたの顔がよく見えるまで
(椎名時慈)暗黒を閉じ込めている一粒の葡萄を食べて種を吐き出す
(夏瀬佐知子)暗黙の了解などというものを疑いはじめどくだみを刈る
今泉洋子) 初秋(はつあき)にピシと弾けし棉(わた)の実は小暗き庭にやさしさ点す
(近藤かすみ)帰り来て暗き鍵穴さぐるときほのかに香る木犀の花
090:質問(77〜101)
(黄菜子)五段階自己評価とう質問に答えあぐねて爪切る夜なが
(笹井宏之)やむをえず私は春の質問としてみずうみへ素足をひたす
(近藤かすみ)あやふやな質問されてうやむやな答をかへす熟年の妻
100:終(54〜79)
(桑原憂太郎) ごんぎつね撃たれし意味を問ふこともなく読み聞かせはこれでお終ひ
(佐原みつる)劇場の入り口でまず確かめて終演時刻をひとに知らせる
(ワンコ山田)「ご飯よ」の声 渋々の顔たちが「またね」と終わりの魔法をかける
(萱野芙蓉)チェロの音が秋へと傾ぐ終楽章わが裸身知るをとこは去りて