題詠百首選歌集・その61+α

 昨日のNHK/BS放送の列島縦断短歌スペシャルという番組に投稿した。野次馬精神旺盛で、年甲斐もなくミーハーの気味があり、この春に50選に入ったことに味をしめて投稿したのだが、穂村弘さんの選で一応御披露はされたものの、残念ながら、最終50選には入らなかった。
  <通勤の群れのざわめく道筋に葬儀を示す矢印のあり> 
 考えてみれば、私自身も2級品だと思っていた作品なので、御披露されたことだけでも儲けものだと言うべきだろう。
 
 
それはさておき、選歌集・その61


072:リモコン(107〜132)
(翔子) 初七日の取り残されたリビングで電池の切れたリモコンと居る
今泉洋子) 十二個のリモコン操作する夫の機械のごときわれとも思ふ
(瑞紀)伝えるべき相手のいないさみしさよ抽斗奥に眠るリモコン
(nnote) 何もかも運び出されてアパートのキッチン見知らぬリモコンひとつ
076:まぶた(102〜127)
(やや)失ひし光のかわりにひらかるるまぶたやはらかな朝をむかへる
(A.I)ぽとぽととまぶたを叩く音がして窓のそとには冬がきていた
(夜さり) 目瞑ればまぶたのうらのKissシーン<地上より永遠に(ここよりとはに)>デボラ・カー逝く
(萩 はるか)夢はもう薔薇色だけで紡がれず蒼い冷気がまぶたをおろす
077:写真(110〜138)
(佐藤羽美) 花の名を持ったあなたを抱き締めて写真の中に押し込んでいる
(笹井宏之) 北方の写真収集家のもとへメール添付で送るひまわり
(瑞紀)しあわせかといつも問われているようでうつむき通る写真館前
(やや) おない年の母が写真の中に笑むひまわり色のブラウスを着て
(夜さり)ほほゑみてふたりは写真のなかに棲む 慈照寺の窓にはかに冥し
(あいっち)写真にはうつらなかった思いとか風の匂いも覚えておくよ
(萩 はるか)紫陽花の横に笑顔の祖母が立つ褪せた写真の家はもうない
(遠山那由) 似合わない振袖のうなじ寒くして硬く微笑むお見合い写真
078:経(104〜129)
(みち。) 経験は消せないこんなかたちでもあなたの中にわたしは残る
ひぐらしひなつ) 猫舌を焼いた夜には緯度経度たしかめながら回す地球儀
(萩 はるか) 経血の赤をさだめとうけとめて襦袢を解けば千の花咲く
(霰)さくさくと梨を齧れば追憶を経てあの秋のかなしみが来る
079:塔(103〜128)
(あいっち)むらさきの塔が見たいときみは言う昨日の夢の続きみたいに
(萩 はるか)朽ちかけた煉瓦の塔を埋めつくすかずらに白い花咲きほこる
080:富士(102〜128)
(瑞紀)なあんにもなくて小さく富士山が見えたことなど思い出す坂
(寒竹茄子夫) 銭湯に富士縹渺とゑがかれて気づけば風の荒野に孤り
(*ビッケ*)晴れたなら遠くに富士が見えるというだけが取柄の街に住みます
089:こころ(78〜102)
今泉洋子)きらきらと煌めく言葉溢れ出づ子の仕舞ひ置くこころのノート
(近藤かすみ)こころとはころころころがるものだから手のひら充てて温めてやる
(あいっち)空回りしやすいこころを連れ出してうんと明るい海を見にゆく
093:祝(80〜107)
(黄菜子) 吾がための祝福として降りかかる日照雨(そばえ)なるかも目を閉じて受く
(笹井宏之)祝祭のしずかなおわり ひとはみな脆いうつわであるということ
(近藤かすみ)だれも来ぬ何も起こらぬわがためにロゼワインもて祝杯あぐる
(nnote)フェルトのかばんに詩集ミルクティーひとりで過ごすそんな祝日
094:社会(79〜105)
(素人屋)教科書に載らない歴史 老齢の社会科教師は語り始める
(あいっち)家族とう社会は苦手 妹はたった四人の常識を言う
096:模様(76〜102)
(橋都まこと)色砂で曼荼羅模様を描いていく僧侶の手先しかと定まる
(黄菜子) 「おゆびさんの模様」と言いてべたべたとガラスに触れいし子も二十歳なり
(月原真幸)足もとに水玉模様ちらばってビニール傘をひらいて走る
(素人屋)からまない会話 秋の日 五分丈の幾何学模様のブラウスを買う
(あいっち)五線紙に音符の模様を辿りつつ使う音色を吹きわけてみる