題詠百首選歌集・その67(最終)

 題詠100首も昨日で終わった。残っていた全首の選歌集をお届けしたい。作品数の多寡はさておき、100題からの選歌だから結構時間がかかり、一日仕事になってしまった。昨日の選歌までは、在庫25首以上の題を原則としていたから、少なくとも1題1首は採るようにしていたのだが、今日は在庫の少ないものもあるので、採っていない題もある。(ときどきお断りしているのだが、題名の後の数字は主催者のブログに「トラックバック数」として表示されている数字である。二重投稿や誤投稿もあるので、実際の作品数とは一致していない場合が多い。)
 
 かなり多くの作品になったので、選歌集をいくつかに分けようかとも思ったのだが、格別そのようにする必要性もないと思い、全部を「選歌集67」とした。
 明日は百人一首のためのデータを整備するとともに、「前夜祭」をブログに載せ、明後日には百人一首を選んでこのブログに載せたいと思っている。



       選歌集・その67(最終)


002:晴(303〜309)
ひぐらしひなつ) 晴れた日に人は死ぬから陽のようにさえずりばかり降る葡萄棚
003:屋根(289〜303)
(寒竹茄子夫) ある冬の閑居のひと日隣り家の屋根うつ雨に夕虹あがる
(平岡ゆめ) 屋根の上に雀が三羽とまってる それだけである10月の朝
ひぐらしひなつ)犬の名はあなたの名前 屋根づたいに行けば月夜はかがやく素足
006:使(286〜291)
(浅葱) 使い捨てのように歯ブラシ残されて昨日の終わりの証がひとつ
(藤野唯)普段では使われてない細胞が動いたような気がした笑顔
007:スプーン(260〜280)
(尾方裕)スプーンに顔がさかさにうつる訳わからないまま付き合っている
ひぐらしひなつ)失ったものを数えてスプーンの背にあおぞらをうつす八月
008:種(256〜267)
ひぐらしひなつ) またひとつ絶滅危惧種リストから消える名ありて濃き夏の木々
013:スポーツ(232〜249)
(平岡ゆめ) スポーツ店の角を曲がって3軒目かつて住みたる家はもうない
014:温(231〜241)
(水口涼子)温かな朝陽射し込む縁側で浴衣の紐を五角に畳む
(平岡ゆめ)君の手の温みが背中に染みとおる今は明日を誓わずとも良い
ひぐらしひなつ)萩の花揺れやまぬまま暮れなずむ体温ほどの憎悪もあれば
015:一緒(232〜237)
(フワコ)つまらないギャグのつまらなさがイイと三人兄妹一緒に笑う
016:吹(207〜230)
(あいっち)膝の上にフルートを置きフェルマータのながき一音吹くまでを待つ
(小野伊都子)風の吹く日のしゃぼん玉 きみのことどれだけ好きか数えてみよう
017:玉ねぎ(206〜228)
(寒竹茄子夫) 藁の匂ひにふかぶか眠れば玉ねぎの強きかをりの納屋に満ちくる
(animoy2)玉ねぎを刻む手つきのぎこちなさ そっと寄り添い後ろから抱く
(小野伊都子)玉ねぎを切らした八百屋みたいだとあなたのいない部屋で思った
020:メトロ(206〜221)
(宵月冴音) 終わらないメトロノームぞ美しき水のにおいのする原爆忌
(木下奏)またおなじメトロに乗って会いに行くあの部屋のカギ持ってないけど
(平岡ゆめ)見上げれば夜にも虹の出るというメトロポリスを恐れつつ棲む
(Makoto.M) 細き管の中を二本の線は伸び秋の来ている東京メトロ...
023:誰(203〜211)
(浅葱) 誰のためでもなく風は吹いており記憶の中の香り運んで
024:バランス(204〜211)
(平岡ゆめ)ゆっくりとバランス崩してゆく朝のシナモントーストまた焦げている
(フワコ)しあわせとふしあわせとのバランスを量りかねてるゼブラゾーン
026:地図(182〜200)
(萩 はるか)うつくしい名を持つまちは地図を去り桜と馬の群れはそのまま
ひぐらしひなつ)ゆるやかなきみへの傾斜 ポケットに地図はちいさく折りたたまれて
(みにごん)思い出はまとめて燃えるゴミに出すどうせ読めない地図なんだから
(平岡ゆめ)この先に使うことなき地図帳を残して君は離れてゆきぬ
内田誠)ゆっくりと閉じこめられてゆきそうで空白のない地図を畳んだ
027:給(179〜196)
(moco)融けかけのシャーベット掬う 夏の日の給食係エプロン白く
028:カーテン(181〜196)
(宵月冴音)受け入れて良いか悪いかこの夜を君にまかせてカーテン閉める
(フワコ)ふるさとの雪の結晶織り込んだひかりのカーテン引いたら真冬
029:国(180〜190)
(平岡ゆめ)珍しき外国の花売られおり別れてみればしみじみと一人
(フワコ)外国の貝殻セットが土産物屋の店先で秋陽浴びおり
031:雪(180〜192)
(宵月冴音) 降りきたる雪ふらんすの言葉ではナジュといふならああこれはナジュ
(小野伊都子) 清らかな雪の匂いがするひとと銀杏並木を歩いています
032:ニュース(179〜185)
(平岡ゆめ) サクサクと忘れてしまいたいニュース目閉じる度に空が眩しい
(小野伊都子)ニュースでは数字のひとつとなった人 好きだった花ゆれ続けてる
034:配(154〜178)
ひぐらしひなつ)気圧配置冬に近づき取り交わす約束などもやさしさを増す
(砺波湊)「四時五十分、新聞配達来る」とだけ書かれた九月八日の日記
036:湯(155〜178)
(萩 はるか) 馬の背に湯気立ち上る秋冷えの空の青さにナナカマド映え
(寒竹茄子夫) 湯の町を背な寒くして彷徨す火蛾の鱗粉あやしく零(ふ)る夜
(みにごん)湯上りの色気を探す旅に出た少女の声が風になる時
(砺波湊)ぬるま湯に高野豆腐はふくらめば満ち足りたように泡粒を吐く
(小野伊都子)湯ぶねには今日のかけらが浮かぶので先に入っておいてください
041:障(152〜173)
(木下奏)気がつけば障子を破く猫が居て恋人代わりに寄り添っている
(寒竹茄子夫)障子隔てて海鳴り響く晩冬のくろがねの瓶しゆんしゆんと沸く
042:海(155〜176)
(瑞紀)ぽっかりと凪の時間が訪れて君と海鮮やきそばを食む
(平岡ゆめ) 海光る午後に理由を携えて君は私の先を歩めり
(浅葱)今はもう戻れない日のふたりゆえモノクロ写真の海は輝く
043:ためいき(153〜177)
(内田かおり) 背を向けてつくためいきの幽さよ金木犀の香はほの淡く
(笹井宏之)降り積もる木の葉いちまいいちまいにあなたのためいきが宿る夜
(平岡ゆめ)ためいきをつきつつ食べるビスケット麒麟は首から河馬は尻から
(二子石のぞみ)傍らに眠る子猫がゆっくりとためいきをつく秋の夜長よ
044:寺(153〜173)
ひぐらしひなつ)菩提寺に降る雨ほそくあなたから名を教わった木々を濡らして
(砺波湊) ドビュッシーの「沈める寺」を聴き終えて強さを増した雨に気づきぬ
(平岡ゆめ) 雨の日の寺院は雨の音ばかり濡れたる足のままに巡りぬ
045:トマト(152〜166)
ひぐらしひなつ)きっとこわいことが起こるとわかってたトマト畑にさそわれた朝
(小野伊都子)青いままいられないこと知っていてトマトは空を見上げ続ける
046:階段(152〜167)
ひぐらしひなつ)階段のさきのあかるみ 死に近き朝の欅を鳥が飛びたつ
(萩 はるか)今ごろのお帰りですか外階段うしろめたげに靴音ひびく
047:没(156〜166)
(内田かおり)撓みつつ赤き陽隠れ日没に人影の無き道真直ぐなる
050:仮面(152〜166)
(萩 はるか)おしごとの仮面を棄ててマスカラとグロスを足せば街はたのしい
(桶田 沙美)ヴェネツィアの仮面細工に魅せられてほんとうのコト告げそうになる
(moco)朝靄に霞む街並みくぐり抜け通勤列車に犇めく仮面
053:爪(154〜163)
(平岡ゆめ)くれないに爪染め上げて8月の夜の記憶を引き上げてくる
054:電車(153〜159)
(JEUX INTERDITS)傘たたみしっとり湿る掌を乾かしもせず電車待ちおり
059:ひらがな(151〜158)
(小野伊都子)ゆっくりとひらがなで書く春の陽をほどいたようなきみへのてがみ
064:ピアノ(130〜152)
(霰) 屋根裏のピアノがつむぐ飴色の音がしづかに季節に溶ける
(空色ぴりか)冷え切った指でピアノのふたをあけでたらめに弾くラ・カンパネルラ
(平岡ゆめ)ぎこちなくピアノ弾く音魚焼く匂いの中を足早に行く
(佐倉すみ) キスをする何処からか鳴る下手くそなピアノが二楽章へと入る
065:大阪(133〜152)
(平岡ゆめ)大阪に行ってたこ焼き食べないで帰ってきたという程の悔い
066:切(127〜151)
(霰)教室の窓に切り取られた空を斜めから見る ひとりの昼間
(萩 はるか)爪切りがきらいな犬を抱きしめるきらいなことがあるっていいね
(空色ぴりか) 海を背にした笑顔だけ切りとってあなたは私の想い出になる
(野樹かずみ)あの部屋にももう戻れないポケットに期限の切れた切符一枚
(砺波湊) 車窓には切手のなかの貴婦人のようにすました横顔ばかり
(きじとら猫) せつなさに襲われる日はさくさくと千切りキャベツのサラダを作る
(平岡ゆめ) 切り口を人に見せたい人もいて夕焼け空は影持つ赤さ
(桶田 沙美) 想いあう故に傷つけ切り結ぶ恋路もあると気づく梅雨空
(野田 薫)切れ味の良い包丁を買うまでは我慢してやるという強がり
067:夕立(136〜156)
(寒竹茄子夫) 夕立の藍の縦縞 わが過去を背中にむけて一歩踏み入る
(たか志) 夕立は思い出させる故郷を弟はいつも白いワイシャツ
(みにごん)授業より大事なものを知った日の夕立雲に睨まれていた
(桶田 沙美) 突然の夕立軒先雨宿りセーラー服着たてるてる坊主
068:杉(137〜156)
(空色ぴりか)杉玉が下がりはじめた軒先をかすめつばめがほら帰りゆく
069:卒業(151〜154)
(野田 薫)卒業の日まで一度も話さずにいた友人がいるおもしろさ
070:神(127〜153)
(佐倉すみ)雲間から夕日が街に零れだす神様はきっと淋しげな人
(野田 薫)どれだけの神が私に微笑んでくれただろうか 砂漠に座る
071:鉄(132〜156)
(遠山那由) 遊具らは錆びつつ黙す 工員の声が聞こえぬ製鉄所跡
(空色ぴりか)地下鉄を降りたホームで立ちつくす私やっぱり行かないでおく
(内田かおり) あの時の〈鉄腕アトム〉も〈鉄人28号〉も鉄なる強さその懐かしさ
(平岡ゆめ) 鉄瓶に祖母は薬湯煎じおり生まれたからには死なねばならず
072:リモコン(133〜150)
(内田かおり)差し出した右手にリモコン乗せられて操るものはテレビか我か
(きじとら猫)誰の手にあるかわからぬリモコンで私は今日も操られてる
(佐倉すみ) ぼんやりとした曇りの日リモコンの電池も切れたし旅に出ようか
073:像(129〜154)
(野樹かずみ)一生より長い一瞬があるという「原爆の子」の像を見るひと
(みにごん) ため息の残像がすり抜けてゆくさよならくらいちゃんと言いたい
(浅葱)現像を待つ時間さえ楽しくて銀塩写真の猫あくびする
074:英語(131〜150)
(空色ぴりか)借りっぱなしだった英語の辞書からはいまだにタバコの匂いがしてる
(砺波湊)ことごとく5ページ以降の例文がひどくさみしい英語教材
075:鳥(128〜148)
(moco)白鳥が星座になったいきさつを語るふりして君を見ている
(小野伊都子)横たわるあなたは鳥のようでした 明日ついばむ実はもうなくて
076:まぶた(128〜145)
(内田かおり)閉じそうなまぶたの君に歌いかけ朝を知らせる携帯電話
(みずすまし)過ぎし日の棚田に遊ぶ我がいてまぶた閉じれば母の声聞こゆ
077:写真(139〜156)
(内田かおり) 赤子なる我の写りし写真には若き父在り我を抱きて
(空色ぴりか)壁に貼ったままの写真が色あせていく笑顔だけそのままにして
(砺波湊) 黄昏に唄がきこえる軒先に少女を飾る写真館から
(平岡ゆめ) 君撮りしピンボケ写真の中の我ただ遠ざかりゆくだけである
078:経(130〜145)
(内田かおり)十年も経れば忘るることあらん思いつつ見る昨日の手紙
(きじとら猫) 身勝手な都合の経口避妊薬ひとつひとつの重さも飲んで
079:塔(129〜147)
(内田かおり)背の高き塔の上なる風見鶏くるくる回る風を捉えず
(佐倉すみ)塔の上イバラも竜もいないからたまには寝顔見に来てほしい
(平岡ゆめ)塔の在る町から絵葉書一枚を寄こしたままのあなたの重さ
080:富士(129〜147)
(平岡ゆめ)向日葵も咲き始めたので富士山に登るという友駅に見送る
082:サイレン(127〜150)
(遠野アリス)張り詰めた心の琴線つまびくと聞こえよがしにサイレンが鳴る
(内田かおり) 順繰りに徐行して行く車列見えサイレンの音は強まり来たる
083:筒(127〜148)
(内田かおり)思い出の中に没せし名前にて封筒の裏ただ見つめおり
(浅葱) 水筒の中身は甘めのミルクコーヒー冬の海には似合うと思う
(JEUX INTERDITS)読んでいる君の反応想像し小さく笑い封筒閉じる
(きじとら猫)水筒の麦茶と同じ冷たさできみの言葉に癒されている
ひぐらしひなつ)封筒の端を裂くときそんな目をしないで秋は暮れてゆくのに
(文月万里)新聞を丸めて筒にするだけで天文学者に海賊になる
085:きざし(136〜147)
(空色ぴりか) いくつものきざしはあった 気づかないふりをしていた それだけのこと
(砺波湊)足の指曲げて眠っているきみに冬のきざしを見つけた夜更け
(平岡ゆめ)かっらっぽのワインの箱を覗き込む何のきざしもないままに冬
086:石(131〜153)
ひぐらしひなつ)石になる覚悟ならもうできていてあなたの髪に手をさしいれる
(佐倉すみ) 石ころを握りしめればなんとなく地球に生まれたことが嬉しい
(小野伊都子) 集めてるハートの石の100個目はきみにあげてもいいとも思う
091:命(131〜147)
(空色ぴりか)にこにこと生命保険を売りに来る人が苦手でまた席をたつ
094:社会(136〜142)
ひぐらしひなつ) 社会派を標榜していたはずなのに何故なのかこの甘き珈琲
(空色ぴりか) 「ごめんなさい」をきょうは何回言っただろう私が社会で生きてくために
095:裏(131〜141) 
(文月万里)裏通り行けば裏木戸きしませて黒猫ついと我が足に寄る
096:模様(131〜148)
(霰)いつまでも風は流れて残せない空の模様をまぶたに隠す
(稲荷辺長太) 重ね着の人の群れが吸う雑音の少ない街はもう秋模様
(小野伊都子)その傘は水玉模様だったので雨をよろこぶ子になりました
(空色ぴりか) 検査結果が出るのをひとり待つあいだクロスの模様だけみつめおり
(平岡ゆめ) 捨てられぬ水玉模様のブラウスに思い出せない思い出のあり
097:話(129〜146)
ひぐらしひなつ)ひとしきり話も尽きて見うしなう遥けさ 今日の雪の重さに
(文月万里)昔々あなたが生まれた雪の夜は・・・祖母の話はいつもそこまで
(霰)目が覚める3秒前に聞いていたアリスと猫のひそひそ話
(小野伊都子)お守りのように握った携帯が人肌になる 電話ください
(空色ぴりか) はじめから話してごらん焼きたてのアップルパイを切り分けながら
(平岡ゆめ)暫くは天気の話 絵の話 ぎくしゃく交わして改札を出る
098:ベッド(131〜145)
(文月万里)二つ並べしベッドの隙間の谷底に通わぬ心が転げ落ち行く
(みにごん)散らかった部屋がとっても似合ってるベッドで食べるチーズバーガー
(やや)ベッド柵にくくられてゐる母の手がゆらりゆらりとわれを呼びたり
(小野伊都子)ベッドにはくまの絵本を入れておく さみしいきみが泣かないために
099:茶(130〜144)
(みち。)こげ茶色になっていく町これからもだれかのせいにしないで生きる
(きじとら猫)真緑の茶畑の中つき進む二十分余の通勤経路
(小野伊都子)秋の日の紅茶は底に誘惑を沈めて香る 森へいきましょう


採った作品のない題

001:始(319〜321)、004:限(300〜302)、005:しあわせ(292〜295)、010:握(264〜269)、011:すきま(257〜263)、012:赤(252)、018:酸(205〜222)、019:男(202〜216)、022:記号(207〜210)、025:化(202〜206)、030 :いたずら(179〜190)、035:昭和(188)、037:片思い(180〜181)、038:穴(178〜179) 039:理想(180〜181)、040:ボタン(179)、048:毛糸(154〜169)、049:約(161〜164)、051:宙(153〜159)、052:あこがれ(155〜163)、 055:労(152〜160)、 056:タオル(159〜165)、057:空気(152〜160)、058 :鐘(152〜157)、060:キス(155〜157)、061:論(152〜159)、062:乾杯(155〜156)、063:浜(153〜157)、081:露(133〜141)、084:退屈(138〜148)、087:テープ(130〜144)、 088:暗(130〜143)、 089:こころ(131〜145)、090:質問(130〜143)、092:ホテル(139〜141)、093:祝(143〜146)、100:終(140〜144)