新風舎騒ぎ雑感

 自費出版を手掛けている新風舎が著者から訴訟を起こされ、昨年から話題になっている。実は、私も新風舎文庫から出版した者の一人なので、その成り行きには関心を持っているのだが、瞥見した限り、正直に言って、原告側の言い分にはかなり無理があるような気がしている。
 
 その最大の主張は、「書店の店頭に並ぶという話だったのに、ほとんど並んでいない」ということのようだ。原告の人々に対し同社がどのような勧誘をしたのかは知らないので、正確な意見は言いようがないが、そもそも500部や800部の刊行物が、全国の書店に並ぶわけがない。このことは常識で考えれば当然理解できるはずのものだ。私自身、発行部数から言って、「書店に並ぶ」ということはほとんど期待しておらず、「書店に注文すれば取り寄せて貰える」ということで十分だと思っていた。新風舎が誇大な勧誘をしたのかも知れないが、「多くの書店に並ぶ」と理解しておられたのだとすれば、余りにも過大な期待だったと思うしかない。
 「通常の自費出版に比べて費用負担が大きい」という主張もあるようだし、それはある程度当たっているのかも知れないが、少なくとも「書店に注文すれば買える」という体制になっている以上、単に印刷・製本をするだけで販売ルートを全く持たない純粋の「自費出版」に比べて割高になることは当然だろう。また、私自身の経験によれば、通常の出版社に原稿を持ち込み、ある程度のコストを負担するという形で出版した経験もあるのだが、それに比べて格別割高だという印象は受けなかった。
 「校正能力が低い」という批判もあるようだが、この点は、私はむしろプラスの評価をしている。著者によっては、出版社が内容や表現にもタッチされることを期待する方もおられるのだろうが、私はむしろ逆で、出版社や編集者に余計な介入はされたくないと考えている方で、私の原稿を原則としてそのままで出版して貰えたことは、むしろ私の好みには合っていると思っている。出版を志した方々の中には、私と同じ好みの方も多いのではないだろうか。
 
 一言で言えば、「出版という形で自己主張をしよう」と考えている場合、同社のあり方は、ベストとは言えないまでも、かなりまともな営業内容だと評価して良いように思っており、原告側の言い分は、いささか過大な期待と甘えを持ち過ぎているような気がしてならない。もちろん私とて、同社に全面的に満足しているわけではないし、特に広告・宣伝や営業活動に不満がないわけではないが、「この程度の私の負担なら、これ以上を期待するのは無理というものかも知れないな」と思ったりしているところだ。

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 訴訟を起こされた原告の方々と私の場合を比べ、同社の対応に大きな違いがあったのかどうかは知らないし、あるいは「あくどい商法」と言えるようなことがあったのかも知れないが、私の目から見る限り、必ずしもそうとは思えない。同社が一方的に指弾を受けるのもいかがなものかと思い、「私に関する限り」という限定を付けた上で、同社の「肩を持つ」次第だ。なお、一連の騒ぎで万一同社の経営に赤信号が点くようなことになれば、それこそ「角を矯めて牛を殺す」ことにほかならないと思う。