地理好きの弁(スペース・マガジン1月号)

 例によって、スペース・マガジンからの転載である。

<時々書いている注記>日立市で刊行されている標記タウン誌に、3年前から「愚想管見」というコラムを持ち、勝手なことを書かせて頂いている。爾来、編集部の御承諾を頂いて、同誌の発行後にこのブログに転載を続けている。



[愚想管見] 地理好きの弁                   西中眞二郎
 
 こどもの頃からの地理好きである。地理好きと言っても、市町村の合併や人口の推移などを中心としたやや偏った地理好きである。それが嵩じて著書も2冊刊行したし、大正9年の第1回国勢調査以来の全国市町村の人口データを整理した自家製の資料は、私の最大の宝物である。もっとも、すべての市町村のデータを備えているからと言って、実際に行ったことのある市町村の数は限られており、目的地への旅の途中で通る町や村のたたずまいや風物を目にすることは、旅のもう一つの楽しみである。はじめての土地を通る際には、乗り物の中で居眠りしたりすることは論外で、いつもキョロキョロしていなければならない。それだけに、かえって旅を楽しめず、疲れてしまうという面があるような気もする。
 昨秋、高校の同窓会に行くついでに、瀬戸内海沿線のローカル線を旅して来た。沿線の風景を愛でつつ弁当を食べようと思っていたのだが、乗ってみたら都会の地下鉄と同じようなベンチ型の座席である。見たいのは南側の景色なので、北側の席に坐れば良いようなものだが、南側に坐った乗客に日除けを下ろされてしまえばそれまでである。本当は、南側の座席に坐って、幼児同様、靴を脱いで窓に向かってお坐りしたいくらいの心境なのだが、良い歳をしたオジサン(オジイサン?)としてはそうも行かない。結局、南側の座席で、体を不自然にねじ曲げて南側の景色を楽しむことになってしまった。もう一つは弁当である。地下鉄と同じベンチ型のシートで弁当を開くのは、どうにも気恥ずかしい。回りの乗客の視線を気にしつつ、慌てて食事を済ませるしかなかった。
 ローカル線の場合、混雑する時間帯でもその混み具合はそれほどではあるまい。地元の方の足というのが第一の使命ではあるのだろうが、旅を楽しもうという乗客も少なくはないだろう。とすれば、よほど混雑する列車は別として、昔ながらの4人掛けボックス型の車両をもっと活用すべきではないかと思われてならない。2人掛けならもっと良い。
 以前にも書いたことだが、駅のホームの看板には、その所在市町村の名前もぜひ付記してほしいものだ。合併によって市町村の区域が広がった現在、その必要性はなおさら強まっているのではないか。
 ところで、大正9年当時、現在の日立市の母体となった町村や人口はどうなっていたのか、冒頭に触れた私の手許のデータで、その後の経過を含め御披露しておこう。
 高鈴村(8,401→助川町)、日立村(25,263→日立町)、坂上村(2,772→多賀町)、国分村(3,499→多賀町)、鮎川村(2,249→多賀町)、河原子町(2,822→多賀町)、日高村(2,293)、坂本村(1,975)、東小沢村(1,601)、中里村(3,130)、久慈町(5,685)、豊浦町(3,647)、黒前村(2,174→十王村→十王町)、櫛形村(3,355→十王村→十王町、一部高萩市
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 皆様明けましておめでとうございます。この欄を持たせて頂いて4回目の正月を迎えました。去年あたり、ついつい堅苦しい話が続いてしまいましたが、今年はできることなら、本来の趣旨(?)に戻って、肩の凝らない話を主体にしたいと思っております。
(スペース・マガジン1月号所収)