題詠100首選歌集(その1)

 題詠100首に参加させて頂いて4年目に入りますが、例年通り選歌集をまとめ、終了後に「百人一首」を作る積りにしております。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による選歌であり、ご不満の方も多いかと存じますが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたいと存じます。
 25首貯まった題から選歌して、それが10題貯まったら「選歌集」としてまとめる予定ですが、最初と最後はそれでは窮屈なので、原則を崩しております。なお、題の次の数字は、主催者のブログのトラックバックの件数を利用しています。誤投稿や二重投稿もありますので、実作品の数とは必ずしも一致しておりません。
 自分が投稿する前には、他の方の作品は読まないようにしているのですが、私自身の作品も第20まで投稿しましたので、そろそろ選歌を進めても良いだろうと思い、手を付けたところです。これからは、私自身の投稿が少し先行するようなペースで、選歌と投稿をジグザグに進めることになるのかなと思っております。
 それでは皆様今年もよろしくお願い致します。


001:おはよう(1〜98)
(はこべ)カーテンを開いてまずは鉢の中覗き新芽におはようをいう
(振戸りく)玄関を出たら空からおはようがわたしに向かって降ってきました
(太田ハマル)まだ夜の街から星の裏側の電話に大きくおはようを言う...
(藻上旅人)おはようを云わずに去った3月の始発電車の中の朝焼け
(蓮野 唯) 「おはよう」が喉から出ない初恋が長身の背を見送っていく
(行方祐美)おはようの母音の深さに似る香ふるーつ物語なる香川のみかん
(永時) おはようを一番最初に言う為に今日は指輪を探す日にする
(梅田啓子)乾き切るからだに起き出す君のため薄めのコーヒー淹れて「おはやう」
野州) おはやうを喉にくぐませはや足で過ぎて少女のはにかみ知らず
(空色ぴりか)その人と別れし朝もリビングでぼんやりながむる「おはよう日本
(文月育葉) おはようのメールを送るためだけに3分早く目覚ましは鳴る
(船坂圭之介)二十年ともに生き越しオウム逝く去り際に言う「おはやう」悲し
(大辻隆弘)おはやうと呼び交はし呼びかはしつつ光の坂を登りゆく者ら
(里木ゆたか)十七年過ぎし今とて思い出す恋知らぬ日の「おはよう」の声
(橘 みちよ)ただひとり異邦人われ教室に入ればおはやう宙を漂ふ
(清水ウタ) 悪戯のキスで目覚める真夜中に含み笑いで紡ぐおはよう
(花夢)すこしだけ傾く地球 おはようの意味は毎日わずかに変わる
駿河さく) おはようの重なる和音遠くなり梱包されて卒業する日
(今泉洋子)こんばんはとおはやうのあはひしか咲かぬ夕月よりも濃き月見草
002:次(1〜81)
(蓮野 唯)「次の恋、あるのかしら?」と嘆きつつ視線気にしてすまし顔する
野州)逢ふときも次に逢ふことばかり思ひ言葉少なくなる帰り道
(はらっぱちひろ)次々に色をつぎ足すパレットに僕の持ち得る自由のすべて
(究峰)次々と沸きては消える妄想の余韻に浸る夜が更けゆく...
(太田ハマル)お話はここでおしまい次ページの白紙の匂いを深く吸い込む...
(空色ぴりか)「次は今夜の天気予報です」その人が暮らす街にも雪が降るらし
(水須ゆき子) やわらかく押しても痛む夜の爪らっぱすいせん次々に鳴る
(大辻隆弘)次に来む悲哀を胸に待つひとよ思ほえば北嶺に雪降る
(玻璃)今はただ静かに浮きて 波に立つ虹を眺むる 次の波まで
(本田あや)次々とコーヒーを注ぐ 幸せは知らないほうがしあわせなので
(志保)次の駅 通り過ぎれば 想い出と あなたのことは 忘れるつもり
(詩月めぐ) もう少し君の隣にいたいから次の電車を待つ一時間
(橘 みちよ)愛さるることに慣れねば抱擁を解かれて次のことばを待つも
003:理由(1〜61)
(那美子)吾を愛す理由(わけ)知りたくて   耳元に唇寄せる 雪空の下(もと)
野州) 納豆に牛乳かけしは唯一の理由にあらず訣れきたりき
(椎名時慈)本当の理由を言わない理由ならわかると思う だから帰って
(船坂圭之介)諄々と理由(わけ)説くひとのさやかなる眼をしみじみと見詰めつつ居り
(空色ぴりか)その人のためといふよりみづからのつぐなひとして理由を伏せをり
(玻璃)「いつまでも君の笑顔を見たいから」 それが私の此処に居る理由(わけ)
(中村成志)冬のゆく理由も知らで唐突に石碑へなだれ落つ梅しだれ
(大辻隆弘) むかうがはの窓が翳らふ理由さへさだめなき日の風のありやう
(水須ゆき子)ぼんぼりを灯せば笑う内裏雛この子の生(あ)れし理由を知らず
(帯一鐘信)嘘という文字をほぐして理由へと組み替えているホテルの出口
004:塩(1〜42)
野州)別れ話出さるる前に食ひしゆゑ岩塩ラーメンそののち食はず
(椎名時慈)塩漬けの桜の花を湯に浸し ひとり暮らしの終わり味わう
(詠時)ワタクシは四種の塩基を組み上げた二重らせんのジグソーパズル
(船坂圭之介)塩を断ち水怺へつつ運命を辿りつゆかな腎を病む身は
005:放(1〜36)
野州) 山巓ゆ見放(みさ)ける果ての峰峰の果てに列なる夏雲の峰
(此花壱悟)放埓の人と呼ばれし叔父のこと今日はビンから指が抜けない
(冬の向日葵)すれ違う赤いポルシェに白髪の奔放を見る暖かき朝
(蓮野 唯)焼き捨てた恋文の灰冬空へ放てば雪と混ざり舞い散る
(新津康)放たれた自由はとうに風化して、未だナイフは掌の中。
(ゆきすずめ)合鍵とアイラブユーを放り投げ君の回収じっと待ってる
(湯山昌樹)深夜一時仕事し終えて寝床にてラジオ放送五分だけ聴く...
(ほきいぬ)放課後はシオカラトンボを捕まえる 君の町へと飛んで行くため
006:ドラマ(1〜31)
(はらっぱちひろ) 間延びしたドラマは続く今日こそは明日こそはとくぐる校門
(鳥獲)その箱に指輪が入っているようなドラマは別に求めていない
(大辻隆弘)ドラマタイズしてかの恋をいふあらば朝風に添ふ桑の若き枝
(本田あや)火曜9時のドラマであればCMをはさんで続くような沈黙
(泉)大き手の温み冷たさ知らずゐてドラマのやうにさよならと言ふ