題詠100首選歌集(その3)

 今日の最高気温は18度になるとか。三寒四温を繰り返しつつ、いつの間にか春になった感じだ。そうかと言って出かける予定もなく、漫然と部屋にこもっている。


      選歌集・その3


008:守(49〜73)
(水須ゆき子)守ろうと思うそばから守られてじっちゃんにまた野沢菜を買う
(天昵 聰)子守唄うたうロボットのゆらぎなき「ぼんぎりぼんぎり」母は帰らぬ
ひぐらしひなつ) 洗いたての膝むきだして守衛室前を駆け抜ければ赤い花
011:除(1〜36)
(此花壱悟)爪紅におとなの顔は写らずにささくればかり除光液塗る
野州)掻い巻の襟を掻きよせ通り見つゆふべ粛(しづ)かに除雪車とほる
(行方祐美) 加減乗除を教えてくれし遠き人おもうとひらり静かな桜
(史之春風)めでたくも除籍処分となりました故郷の町はもう春ですか
(もよん)アドレスも メールも 全部削除して 失恋リセット作業 終了
(大辻隆弘)石榴照るうつつよりはや除かれて遠ざかりゆくひとりと言はむ
(夏実麦太朗) 残酷な未来を予見させぬようまっすぐ白く咲く除虫菊
(みずき)臓物を除く手さばき青白き炎(ほむら)となりて魚の横たふ
(椎名時慈) 目隠しを取り除くまだぼやけてる眼(まなこ)に猫がのそっと入る
012:ダイヤ(1〜36)
(詠時) 「ご迷惑おかけします」の一声でダイヤグラムは迷路に変わる
(大辻隆弘)はつあきの淡き嘆きを継いでゆくダイヤグラムを指でたどりて
(駒沢直)永遠に出会えそうもない運命のダイヤグラムに線を書き足す
(たちつぼすみれ)ダイヤルを回す間のときめきを忘れたくないあなろぐ世代
013:優(1〜30) 
(行方祐美)光源氏の頤ゆっくり動くよう優雅に咲きぬ裏の紅梅
(究峰) 真夜中に優しき声で夢を見る母を叱るに声を荒げる...
(藻上旅人) 優しさのむこうがいつも気にかかり立ち止まっては縮まらぬ距離
(夏実麦太朗) 嬉しさを悟られぬよう下を向き準優勝の盾を授かる
(みずき) ひんやりと額に触れし指つたふ優しさ重さ春は間どほく
014:泉(1〜26)
(行方祐美)トレヴィの泉の夢を見ましたと書き出せば日輪ひらりと傾き初めり
(夏実麦太朗)肩こりと腰痛に効く温泉に四時間かけて電車で向かう
(みずき) 泉湧くほとり真さをき睡蓮の淡く暮れゆく古都の回廊
015:アジア(1〜25)
(みずき)アジアから風の吹くらし蘭鉢の黄ばむガラスに幼き指紋
(草蜉蝣)ひんがしのアジアのはぢの軒のした白のくつした叩(はた)くは黄砂
(那美子) アジアなる大地に生まれ死に行きし 吾子の墓前にサリーの揺れて
016:%(1〜26)
(玻璃)お互いに「諦めれば」と笑い合う 泣くほど低い %(パーセンテージ)
(泉) 残されし2%を信じ得ず遊びのやうに鉛筆削る
(千歳)君は今日この道通って帰るかな 10%の奇跡に賭ける
017:頭(1〜27) 
(行方祐美) 頭領は今日も水色ゆったりと弁当箱を右手に提げて
(みずき) 頭髪を束ね恋ほしき夏化粧もろき心に二夜(ふたよ)泣きしも
(本田あや)頭痛薬 どこかの人のやさしさにこちらを向いて欲しい日もある
(もよん)コンビニで トイレだけでは 気が引けて 饅頭いっこ ぶら下げて出る
(那美子)今度こそやり遂げるなど嘯いて 竜頭蛇尾を繰り返しをり
018:集(1〜26) 
(赤城尚之) 寝る前にきょうのかけらを集めたらおやすみなさいのかたちになった
(もよん)万葉集 開いて 恋の歌を見る 昔も今も 人は変わらず
019:豆腐(1〜26)
野州) アルバムのチャーリー・ミンガス聴きてのちゆふべしみじみ豆腐分けあふ
(蓮野 唯)慎ましく蜜に浮かんでゆれている乙女のような杏仁豆腐
(船坂圭之介)食べたきは麻婆豆腐に明太子 腎病むわれに許されぬもの
(木下奏)真四角に切られた豆腐を眺めつつ考えているこの先の事
(もよん)ままならぬ 思いは 腹に閉じ込めて 崩した豆腐 鍋に投げ込む