題詠100首選歌集(その4)

        選歌集・その4

001:おはよう(130〜156)
(丸山汰一) おはようを言わないうちに一日が過ぎ去っていく また春がくる
(わたつみいさな。)セックスの余韻を夜に押し込めたおはようなんかが寒い3月
(幸くみこ)「おはよう」と私を抜いていく君のコートの揺れを見送っている
(ezmi)いまはまだ誰のものでもない朝(あした)駆け抜けてゆく君におはよう
003:理由(106〜131)
(水都 歩)伝わらぬ思いに心定まらず理由無きまま髪掻きむしる
(惠無)足元の理由のしっぽふんづけてそっとあなたを引き寄せてみる
(稲荷辺長太)デザートと理由を2つ追加して探りあいつつ共犯になる
(emi )沈黙の理由は今も語られず引き潮のように君は去りゆく
004:塩(92〜119)
(田丸まひる)さざ波に奪われながら胸骨の真塩を舌に記憶している
(橘 みちよ)太古には鮫泳ぎゐし深きうみかの死の海といふ塩の湖(うみ)
005:放(83〜109)
(池田潤)優しいと言われるためにしたすべて夕日きらめく川へ放(はな)った
(髭彦)尿(しと)放つ裸僧描きし鮮烈な燃え立つ赤をひとは忘れじ
(青野ことり) 裏路地に放置されてる自転車に知らない町が匂うつかのま
(水都 歩)放たれし小鮎の跳ねて水に消ゆ犀川べりに杏咲く頃
(暮夜 宴) 奔放な言葉ばかりが先走り置いてきぼりのからだが寒い
(美久月 陽)報われぬ想いばかりがつのる夜に放物線をくしゃりとつぶす
006:ドラマ(75〜105)
月夜野兎)ドラマでも映画でもなく我が人生アドリブ満載主役はワタシ
(斉藤そよ)ドラマならクライマックス、伏線の回収も終え犬は眠りぬ
(花夢)いちれんのしぐさをなぞる げんじつにちかいドラマをつくるつもりで
(大宮アオイ) ドラマなど観る暇もなく春の陽に釣鐘草は新芽を伸ばす
(橘 こよみ) あたたかい部屋でドラマのきれはしがぽとりと床に落ちるのを見た
(美久月 陽)あのひとともう逢わないと決めたから去年のドラマの録画を観よう
007:壁(61〜85)
ひぐらしひなつ) かたくふたり指をからめた壁に添う夏のひかりが傾くまでを
(暮夜 宴)鉄壁の嘘をいくつも積み上げて砂上の城の道化師となる
009:会話(41〜71)
(中村成志)目の前のわたしではなく右脇のシュガーポッドと会話している
(原田 町) 挨拶のみ会話少なき人ら増えわが自治会の30年目
(橘 みちよ)二十年会話してきて何ひとつ同じ景色を見ていなかつた
010:蝶(38〜66)
(松田丸二) こうやって手をつないでね 仄明り 蝶の名前をおしえてあげる
ひぐらしひなつ)磔刑の蝶を並べた書斎持つひとの訃報を読む木曜日
(原田 町) てふてふと表記しおれば海峡を越えゆく蝶の羽ばたきの見ゆ
(梅田啓子)蝶結びのうまくむすべぬママの子の髪のリボンはいつもまがれる
(酒井景二郎) どん尻に猪鹿蝶を引き當つるごとき戀とは言ひも言つたり
020:鳩(1〜25)
(行方祐美)鳩尾がきりりと痛むことなんてきっとないだろゆらら陽炎
(玻璃)寒空に 薄き陽射も暮れ落ちて こころ映すか鳩の羽根色
(夏実麦太朗) 境内に群れなす鳩は各々のリズムを保ち豆をついばむ
(みずき)マジシャンが放ちてとほき鳩笛の帰らぬ午後を春愁といふ
(泉)山鳩が隣家の屋根を歩きをり春は瞬く間に膨らみて
021:サッカー(1〜25)
野州)やすやすとエラシコ決めて路地裏のサッカー小僧愁ひもあらず
(玻璃)思い出は古き写真に仕舞われた サッカー生地の 母の手の服
(蓮野 唯)持ち主は何処へ行ったか暮れていく砂場にひとつサッカーボール
(みずき) 一心にサッカーボウル蹴り上げし空は三月落ちて花冷え
(那美子)サッカーのルールを熱く語りをる  君を見つめて過ぐす真夜中