題詠100首選歌集(その6)

 生来のせっかちゆえ昨日完走してしまったので、このブログのうち短歌関係に関する限り、当面選歌に専念するしかない。至って勝手な選歌ですが、よろしくお願い致します。


    選歌集・その6


001:おはよう(157〜183)
(岡本雅哉)うしろから追い抜いていくおはようを追いかけ走る朝の校庭
(月子)おはようと君に言われたそれだけで踊りはじめた傘の雨音
(五十嵐きよみ)歯ブラシをくわえたままの「おはよう」が「さよなら」みたいに聞こえて困る
(やすたけまり) おはようは坂のてっぺん ジグザグに蜜柑畑をぬければ予鈴
(渡邊 琴永)ひとつ前に小さな休符つける癖、いつしか付いたおはようを言う...
004:塩(120〜149)
(きくこ)別れきて浄めの塩を踏みしだく灯火に悲し影ひとつありて
(さくら♪)初孫の宮参りする塩釜に子平蝋梅甘くほころぶ
(幸くみこ) おしるこに塩ひとつまみ そっけない君のメールが気になっている
005:放(110〜139)
(ハナ) 髪の毛のひとすじまでがそれぞれに放物線を舞って 春恋
(田丸まひる)リラ冷えのわたしの胸の音を聞く解放されることのないひと
(yuko)ランニングしてみようかな吹く風がふと春の香を放つ夕暮れ
(ワンコ山田) 流れるか飛ぶか墜ちるか流星の放射点から占う未来
010:蝶(67〜93)
(丸山汰一) 蝶でさえ振り払われるやわらかな肩にはじめて触れた日のこと
(野良ゆうき)吐く息の白さのなかへ凍蝶はひらひらと来てひらひらと去る
(ちりピ)ちょうちょうと舌ったらずなひらがなの少女の吐息が甘く暮れゆく..
(帯一鐘信)ひそやかに番の蝶のそのしたで重なる影を踏む鬼ごっこ
011:除(62〜86)
(空色ぴりか)その人の名前をそっと削除して時間どおりに会が始まる
ひぐらしひなつ)除虫菊咲きわたる午後の斜面から海へと放つ紙の飛行機
(藤野唯)きらきらと輝くものと引き換えに君から私が除かれていく
(暮夜 宴) ため息を洩らすと笑う春の月さみしさだけを削除しましょう
(野良ゆうき)削除キーひとつで僕が消してきたものたちの名は覚えていない
017:頭(28〜53)
(究峰)頭毛は柔らかくなりぬ 理髪師の言葉に時の流れが淀む..
(梅田啓子) 音楽のひねもす頭に響(な)るといふ生徒ゐたりきその後は知らず
(はこべ)葉鶏頭秋には名をば代えるとうその名美し雁来紅と
(水須ゆき子) 頭痛にもきっと事情があるはずだ聞いてやってと飲む風邪薬
022:低(1〜25)
(玻璃)左右へと一期一会の 冬の日の風に流るる雲の高低
(船坂圭之介)背に寒き春の木枯らし遠来の亡友(とも)か呼ぶのは 低き声音で
(みずき)こゑ低き君にしあればガラスより繊細な魂(たま)ふと見失ふ
(藻上旅人)梅の香が低く降り来る日曜の空高くして風渡り来る
(たちつぼすみれ) 木漏れ日をあまねく吸ひて下草は低きところに棲む術を持つ
023:用紙(1〜25)
(玻璃)置き去りのレポート用紙の切れ端に恋を匂わせ 君が駆けてく
(船坂圭之介)古めきて黄焼け激しき原稿の用紙に踊る若き恋ひ歌
(那美子)緑色の薄き用紙が彼と吾の 人生(ひとよ)壊して秋時雨れをり
024:岸(1〜25)
(赤城尚之) 岸まではまっすぐなのにどうしても左にそれてゆくような恋
(夏実麦太朗)彼岸には田舎へ帰るつもりにてみやげ話をカバンに詰める
(詠時)ゆらゆらり岸辺は異界の境にて君の言葉のリズムに似てる
(みずき)岸壁に俯く女さよならの容をそつと傘に隠せり
025:あられ(1〜25)
(此花壱悟) 桃色のあられひとつぶおしいだき懐紙に畳む喜寿の雛君
(行方祐美)三色にひなあられ笑うように鳴る陶器もそろそろ春かもしれず
(船坂圭之介)ゆくりなく奈良へ旅する友あれば土地の名産「あられ酒」頼む
(藻上旅人)ふたりとも持て余したる昼下がり あられつまむ手そっと絡める