題詠100首選歌集(その8)

 今日は土曜日。もっとも、「毎日が日曜日」の隠居の身にとってはあまり関係ない話ではあるが・・・。久々に晴れて暖かい一日だ。春だということをあらためて感じて、こんな日には自然の営みがいとおしくなる。題詠の投稿も平常のペースになって来たようで、在庫が貯まるのに数日掛かるようになって来た。それでも、去年よりは少しペースが早いようだ。


 選歌集・その8

007:壁(111〜136)
(文月育葉)シンデレラにはなれなくて壁の花 せめてカボチャの馬車で帰ろう
(田丸まひる)うつくしい試練の壁を這うたびに風化する指 もう いのら ない
008:守(100〜124)
(岡本雅哉)守れない約束だけがふえていく貼らないプリクラもらうそのたび
(やすたけまり)校庭は鳥獣保護区のまんなかでおおきな春に守られていた
(村本希理子)胎内に守るものなどいらないね アラーム時計の電池を外す
012:ダイヤ(64〜96)
(水都 歩)残雪は無数のダイヤ散りばめて音もなくただ消ゆる日毎に
(わたつみいさな。)雪のためダイヤが乱れておりますがほんとの理由(わけ)はあたしの気持ち
(詩月めぐ)似合わないダイヤの指輪はめるよりひとりでいると決めたあの夜
014:泉(55〜83)
(丸山汰一)泉からこんこんと湧く思い出にずっと浸したままの両足
(髭彦)ちちははの眠るいわきに近づけば泉といふ名の駅のありけり
015:アジア(53〜79)
(野坂 りう)二人しか知らない二人が増えてゆく 午前3時のアジアの片隅
月夜野兎)好きなのは映画と歌とスィーツとアジアンカフェの一人の時間
(大宮アオイ)沈み込む思考に飽いて日溜りにアジアンタムの鉢を浮かべる
ひぐらしひなつ)齟齬ひとつ引きずりながらアジア的街の日暮れをひたすらあるく
016:%(54〜80)
(水須ゆき子)春の夜成分のうち少なくとも20%は猫である
(大宮アオイ) あの日より境界線の渡されて100%の背徳の色
ひぐらしひなつ) 「%」並べて天気予報図がウルトラの星めく日曜日
(原田 町)海亀の子が親になる%(パーセント)預金通帳見つつ思えり
(水都 歩) その予言何%信じれば叶うのだろう遠距離の恋
020:鳩(26〜54)
(梅田啓子)伝書鳩を飼ひてゐしいへ廃屋となりて息子はタイに住むらし
(大辻隆弘) 髪ぬれて無辜たるものよ雨の中にみだりがはしき鳩を抱きて
(はこべ)両の手を合わせて吹ける鳩笛を試していたる少年ありき
021:サッカー(26〜50)
(泉)サッカーを見てゐる君を見てをりぬ言葉すべてを灰にかへして
(秋ひもの)公園で一人サッカーするオヤジ 空見るフリして見ているオヤジ
(はらっぱちひろ) サッカーの観戦中は娘から息子になって父と語らう
(梅田啓子) 楕円形の巨大な円盤ひらかれてサッカー場が眼下にひかる
(ゆきすずめ) 背凭れはサッカーゴール 待ち人は来ないし携帯だって鳴らない
029:杖(1〜25)
野州)しぐれつつ峠越ゆれば聞こえきしたれか襤褸の錫杖の音
(夏実麦太朗)あまりにも夢が沢山ありすぎる魔法の杖は一本でいい
(詠時)それぞれの魔法の杖が奏でたる音色解け合う弦四重奏
(那美子) 前髪に風柔らかき頂(いただき)は  蝶のとまれる杖屹立(きつりつ)す
(こはく)杖と呼ぶには頼りない傘を手にKIOSK前で刻んだ記憶
031:忍(1〜26)
(みずき)忍冬(すひかづら)夏咲く花の羞(やさ)しさをうすうす挿せり淋しき髪に
(詠時) 01(ゼロイチ)の羅列の中に悪意あるウイルス忍ばす人の神業
(赤城尚之)割れしのぶ結った少女が忍ばせた想いも知らず鴨川の岸
(那美子)不忍池(しのばずのいけ)の面(おもて)に  我が背(せな)の面影映る春の訪ひ