題詠100首選歌集(その11)

 今日は、久々の大学クラス会に出かけて来た。皆古希を過ぎた仲間ばかりだが、良く知っている者ばかりのせいか、あまり年齢を感じない。私を含め、歳をとっても枯淡の境地に達した男はいないようだし、若いころと変わっていない(=進歩してもいない)ような気がしてならない。もっとも、体のことになると、いずれも歳相応に大なり小なり問題を抱えているようではあるが・・・。


     選歌集・その11


001:おはよう(184〜208)
(kei) おはようの声は谺を連れて来る明日閉ざされる山の分校
(萱野芙蓉)ルクレツィア・ボルジア風におはやうを 昼のグラスにつぐ発泡酒
(長月ミカ) 「おはよう」と言っても返事のない部屋にただやわらかな光差し込む
006:ドラマ(134〜158)
(葉月 きらら)ドラマなら行くなと言って抱き寄せて ゴメンと言ってくれるだろうに
(yuko) 「ちりとて」も朝のドラマの鋳型なり清く正しくおもしろくなく
(kei)新じゃがの丸揚げしつつ聴いている油の中で始まるドラマ
(睡蓮。)人生は連続ドラマとは違い予告も無しにくる最終話
008:守(125〜149)
(萱野芙蓉)木苺を食べさせ合つてゐるときに守るだなんて言ふのは嫌ひ
(ワンコ山田)恋人の名残はかすかニューロンの先に丸めた守秘義務のくず
(白田にこ)そうやって右手で守ってくれるからぼくはきれいな空色になる
(ME1) 守るべき想いに尽きて迷い月 三十日間際の 三十路有明
(七十路淑美) 寅歳の我が守護霊はトラなるや怒り吹き出す折々に思う
014:泉(84〜110)
(畠山拓郎)泉からこころに水を補って春の日和に癒されている
(月子)サヨナラはすぐそこなのに言葉なく温泉玉子つぶせずに朝
(やすたけまり) ゆらゆらと雲母は剥がれ傷のある泉の底に鼓動はつづく
(萱野芙蓉) 泉とはつひに触れえぬ聖域かわれを拒みし少年のごと
(空色ぴりか)温泉にいってきたよとわたされしまだほんのりとぬくき芋餅
015:アジア(80〜106)
(暮夜 宴)春色のアジアンカフェで飲むチャイの甘さで好きと囁いてみる
(美久月 陽)面差しが誰かに似てると眺めれば霞微笑むアジアの仏
(幸くみこ) 階段に座ってネイルを貼り直す 赤、黄ぃ並ぶアジアの街で
(西巻真)なんてことはないけど僕もアジア人 ニットをちょっと深くかぶって
021:サッカー(51〜75)
(大宮アオイ)雨間に散歩に出れば砂利道の持ち主のなきサッカーボール
(村上きわみ)夏の子が夏の男になってゆくシアサッカーのシャツをはおって
(水都 歩)暮れなずむ校庭隅に忘られしサッカーボール明日は雨かも
(原田 町)サッカーよりルール少しは分かるゆえ野球が好きとつぶやいている
027:消毒(26〜50)
(こはく)傷ついたことばをくるむありがちな消毒液をぶちまけた日は
(髭彦)赤黒き色にて傷を塗りこめし消毒薬を子らは知らずも
(新井蜜) 消毒の臭いにむせつつ休日の緊急外来処置室で待つ
(大辻隆弘)ふたたびを帰り来ざりき微笑みて消毒室にゆきたるひとは
038:有(1〜25)
(藻上旅人)有理数ふたりで表現できるのに日々出会うのは無理数ばかり
(夏実麦太朗)提出日だけ空欄で仕舞い込む有給休暇届出用紙
(梅田啓子)われに子の有りや無しやと問ふほどに子は忙しく暮らしゐるらし
039:王子(1〜25)
(那美子)いつまでも白馬の王子夢に見し 少女(をとめ)のままでいたき初春(はつはる)
(梅田啓子)キムタクもハンカチ王子ヨン様もタイプにあらず 柊の花
041:存在(1〜26)
野州) 「存在」と言ひかけて止めた口元を見透かされたやうに饅頭を食ふ
(みずき)存在の薄き影ひく梅雨の階 うつろに低き太陽の消ぬ
(那美子) 存在の証明として彫り残す 机上の記号(イニシャル)今日は深めに
(秋ひもの) 存在について悩んでいい年じゃないと知りつつ海を見に行く
(梅田啓子)われといふ存在消したき思ひ湧くリュックを背負ひ街にまぎるる