題詠100首選歌集(その12)

         選歌集・その12


004:塩(150〜175)
(五十嵐きよみ)つい今日も彼女の好みに茹でていた玉子に塩をおもいきりふる
(里木ゆたか)寂しくも涙出ぬ日の夕飯に塩気の足りぬ味噌汁を飲む
(寺田ゆたか) 減塩の食事になれて久しかり涙の味も薄きこの頃
005:放(140〜164)
(越後守雪家) 放課後の校舎の脇にひとりきり逆さに沈む夕陽と溶ける
(七十路淑美)瞬きの青き光りを放ちつつ「きぼう」は巡る冬の高空
(紺乃卓海) 萌芽その無垢なすがたがうとましく背後に放つあおむし二匹
(拓哉人形)ん で終わるしりとりみたい。繋がらぬ会話を空へ放つ夕暮れ
007:壁(137〜161)
(萱野芙蓉)やはらかくわたしを壁のつる草に同化させゆく三月の雨
(ワンコ山田) 春だから成長点のざわざわが細胞壁の脇をくすぐる
(村上はじめ) 壁の穴覗いてみたら向こうから昨日の私がこっちを見てた
(本田鈴雨) 教室の壁のかべいろ刻々と映すひかりに色を変へゆく
(佐原みつる) ステージに主役が登場したあとも壁際に立つ人を見ている
佐藤紀子) 薄き壁を結界として住み分ける我がマンションの百余の家族
009:会話(124〜128)
(kei)耳元に届く春風との会話あなたの声に少し似ている
(西巻真)さよならと僕のわびしい個人史をきみとの午後の会話に乗せる
(月原真幸) 交わすはずだった会話と交わしたくなかった会話を見比べている
(絢森) まるまってゆく言葉たち鍵穴は会話の繭に閉じ込めておく
016:%(81〜112)
(月子)三月の風にゆられて泣きそうな40%OFF冬色セーター
(花夢)意味もなく泣きたいときはとりあえず果汁100%で満たす
(田丸まひる)かぎりある今日を1%ずつやさしく屠りながら生きたい
026:基(26〜52)
(梅田啓子) 若き日は黒を基調のファッションに浅川マキとなりて歩きぬ
(大宮アオイ) 飛びちがう光の中で君の手を求める基地のある街の夜
036:船(1〜26)
(船坂圭之介)卵黄のあはれ黄なるを崩されて夕餉乏しき二等船室
(玻璃)「昨夜はね 船に乗った」と幼子の夢も無邪気な山間の朝
(梅田啓子)船頭の櫓をこぐたびに空ゆれて渡りし沼に橋の架かれる
040:粘(1〜25)
(行方祐美)粘りつく言葉を透かす風であれメールは待つもの七日が過ぎぬ
(船坂圭之介)春の夜のおぼろに霞むひと夜さはひとりひつそり酔ふ粘き酒
(みずき)粘りつく暑き庭先うつすらと明日の夕顔ねむる静けさ
(ちりピ)粘りつく言葉が口から離れずにあなたは青いセーター着てた...
042:鱗(1〜25)
(此花壱悟)鱗雲(りんうん)を青空高く編みあげて真昼の月を捉えようとす
(那美子)鱗片(りんぺん)の如き記憶をかき集め   我を愛すと告げ給ふ君
043:宝くじ(1〜25)
野州) そしてなほ希望は捨てぬゑひどれて宝くじ売る傍らを過ぐ
(船坂圭之介)宝くじ当る筈なきこと知れど今日もナンバー選る身の侘びし
(みずき)宝くじ十枚ほどの夢だきて恋の水髪梳きし小春日
(草蜉蝣)割り箸でカレー饂飩をすくう日のテーブル端に宝くじあり
(たちつぼすみれ) 宝くじ外れし後も仏壇に鎮座ましますお守りのごと
(梅田啓子)松坂の年俸聞きて宝くじ買ふ気の失せぬ 茶漬けをすする
(こはく)誰からも思い出されることのない未来のために買う宝くじ