題詠100首選歌集(その16)

 在庫の数が25首に近い題は今日でかなり減ったので、選歌集も小休止になるのかと思う。


      選歌集・その16


004:塩(176〜200)
(Asuka)風邪ひきの 母思いやる子の粥を 少し濃くする 塩味の雫
(絢森)銀色の塩は冷たく作り出す卵料理はどれもが透ける
007:壁(162〜186)
(新井恭子)壁際に散った花びら/空っぽになった水差し/おうちにかえる
(吉浦玲子) 地下鉄の車窓にわれは映りゐる嘆きの壁に立つ人のごと
027:消毒(51〜80)
(遥遥)遠い夏多くのものを置いてきた消毒薬のにおいとともに
033:すいか(26〜57)
(泉)まみどりに内なるものをひた隠しころげゐる如すいか無造作
(中村成志)色青きすいかころころ陽を浴びて湾岸道路に転がりており
(大宮アオイ)すいかバーかじりつつ行く陽炎の立つ坂道に蝉時雨降る
(原田 町)死の際の祖母食べたしと言うすいか真冬の街に母は探せり
(新井蜜)十四の夏にあなたと寝転んだすいか畑にコンビニが建つ
034:岡(26〜54)
(ほきいぬ)「大発見ッ!『岡』って漢字をじっと見てッ!! なんかアザラシの顔に見えないッ!?」
(小籠良夜)岡陵の地に仏在り 島嶼には神々が在り 巡る日輪
(はこべ)静岡の大きな富士の故郷に帰りし友今は黄泉にあり
(月子)もう一度福岡であのラーメンを食べたいと言う君の口癖
035:過去(27〜56)
(泉)枝の芽の冷たき雨に閉ぢるごと過去より届く寒さ身に沁む
(岡本雅哉) せんぱいと見上げる桜 春風が一まい、一まい過去にしていく
(中村成志)ふくらみは果てなくみえて一瞬の過去もろともに波がくずれる
(椎名時慈)1時間前は過去だと思い知る 母に5度目の説明をする
(はらっぱちひろ)思い出になることのない大半の過去が私の生(せい)を漂う
(流水)懐かしいなどと思わぬ過去があり風葬のごと花びらが散る
(七十路淑美)過ぎてゆく人生過去と呼ぶならばこれからの過去デザインせむか
049:礼(1〜25)
(此花壱悟)祭礼の調子ッぱずれのてんつくが嬉しくもあり小春日和に
(行方祐美)礼状の書き方教えず過ぎし日々疲れがどっとひろがる曇天
050:確率(1〜26)
野州)出会ふとふ確率のこと考へるたとへば冬の蛍とわれと
(船坂圭之介)次の世でふたたび逢へる確率を思へば悲し冬の陽の墜つ
(夏実麦太朗)無駄な事わかっているが七日後の降水確率にらみ付けてる
(たちつぼすみれ) 残酷な確率医師の告げる日も草や小鳥を詠っていたい
051:熊(1〜25)
(みずき) 熊穴に篭りて雨の降りさうな 小枝に懸かる昨夜(よべ)の月影
(那美子) 棚の上(え)の木彫りの熊のそのあまり 哀しげな瞳に見送られをる
(梅田啓子)ジギタリスの花に入りたる熊蜂は尻をぢりぢりふるはせてをり
053:キヨスク(1〜28) 
(此花壱悟)キヨスクで逸脱を購ふはじめてのワンカップ持つ平日の朝
(行方祐美)キヨスクでガムを買うほど簡単に注射の単位を決められており
(みずき)キヨスクの灯す夜風に膨らますパンの形に軽き小ぶくろ