題詠100首選歌集(その17)

 去年の選歌集を開いてみたら、「その17」は5月2日付けになっている。今年の方が、かなり投稿のペースが速いようだ。


    選歌集・その17


001:おはよう(209〜233)
(ドール) 「おはよう」とカフェオレ、トースト、目玉焼き いつもどおりの朝が来る幸
(村木美月)前髪を気にしながらの「おはよう」は遠いあの日の初恋に似て
(内田誠)携帯の受信トレイに「Re:おはよう」と桜の絵文字が溢れたら、春
(天野 寧) 普段なら何てことない「おはよう」にちょっぴり照れる卒業の朝
(水-mina-)「おはよう」もさみしく静かに響いてた雪の匂いのする朝だった
017:頭(106〜131)
(紺乃卓海)びっしりと吊り下げられた鶏頭の花あかあかと爆ぜて八月
(田丸まひる)花疲れ 頭痛とかたい腕まくらだけを四月の収穫にする
022:低(83〜107)
(ほたる) 受話器越し抑えた声の低音につじつまさへも寄り添っていく
(志保)雨音と 低血圧を 言い訳に 二度寝楽しむ 日曜の朝
(小早川忠義)落ち着きと余裕を見するためなりき指示は半音声低くして
(萩 はるか)春さがし犬の低さに身をかがめ犬のこころでふきのとう嗅ぐ
023:用紙(82〜106)
(志保)公式が あればいいのに 恋愛も 白紙のままの 解答用紙
(村上きわみ)ふくらんだ春の用紙を噛んだまま深くねむってしまう複写機
(暮夜 宴) 三月の海を描けば画用紙のなかで静かに打ち寄せる波
(青野ことり)先生の素顔が垣間見えるかと問題用紙の隙間を睨む
024:岸(76〜100)
(ほたる) 貝殻のピアスひとつを失くす夏シアンの海の岸で眠ろう
(幸くみこ)対岸のロシアの積荷が春雨にぬれて故郷の夢をみている
036:船(27〜51)
(泉)密やかに夜の海原走り来る金色の船夢に待ちをり
(磯野カヅオ)隅田川暮れて行き交う屋形船灯す水面の影のとまどひ
(七十路淑美)霧深き瀬戸の海渡る連絡船離郷の女を霧笛が責める
(新井蜜)船底の狭いフロアに雑魚寝して足の臭いを嗅ぎつつ眠る
037:V(27〜52)
(こはく)Vネックセーターを着て3月に4月が触れる街を見ていた
(新井蜜)Vネックの谷間のぞかせ差し出した書類の不備を指摘してみる
039:王子(26〜51)
(月子) 20年の歳月を経て本開く「星の王子様」は少年のままで
052:考(1〜25) 
(行方祐美)思考回路の交わりなんてないものと思えばかるき今夜の雪も
(みずき)考へに沈みて夜の声亡くす 窓に懸かりし満月は冬
(ちりピ) 考えるべきことはまだ残ってて眉毛を何度も書きなおしてる...
054:笛(1〜25)
(此花壱悟)口笛を吹けば灯りを消した部屋の闇の広さに遠くエコーす
野州)草笛をかくもかなしく吹きゐるはなにごともなきゆふぐれのため
(船坂圭之介)虎落笛(もがりぶえ)さながら響く春なれば遠鳴る汽笛靄の奥より
(藻上旅人)祭りの日「はじめまして」と言えないで笛の音ともにセピアに染まる
(髭彦)改憲の笛を吹けども日ならずに器知れたり前(さき)の総理の
(たちつぼすみれ)陶の笛両手に包み温かき「涙そうそう」を吹く友の居て
(こはく) ほうっておけば重さがつのる沈黙にあなたはうすく口笛を吹く
(Asuka)いつの日か二重奏(デュエット)夢見て吹き続く 葦笛(あしぶえ)の音(ね)に切なさ増して