題詠100首選歌集(その19)

         選歌集・その19



010:蝶(149〜175)
(五十嵐きよみ)話すたび笑いあうたび軽やかにほどかれてゆく蝶々結び
(里坂季夜) めずらしい蝶だったねと羽だけをもいで飾ろう夜の裏側
(小早川忠義)羽ばたくは風に逆らふことなりて蝶の最期は羽の畳まる
(本田鈴雨) ぼんなうのしたたるなづき身にささへあはれ羽ばたきえぬ胡蝶骨 
(虫)揚羽蝶が舞うお隣のポストから垂れたチラシの褪せた原色
020:鳩(105〜130)
(萱野芙蓉)動くたび虹の輪ひかる鳩の首 やさしいものは少しおもたい
(西巻真)鳩以上になれない鳩がわずかだけ羽毛を増やす初夏のひざしに
(青野ことり) 言いたくて言えないことがまたひとつ鳩尾あたりでのたりとうごく
(emi) 鳩時計こわれてぽおとだけ鳴く日荷物すくなく帰る弟
(佐原みつる)そしてまた時間は過ぎていたようで壁の時計の鳩が鳴き出す
(橘 みちよ) 遠き日にわれら集ひし喫茶店いまも記憶に鳩時計鳴る
(天野 寧) いつからか時計の鳩も引きこもりいよいよひとりぼっちの私
025:あられ(80〜104)
(葉月 きらら)窓叩くあられの音を聞きながら 肌重ねあい落つ夢の中
(ME1)あられ降る 空を嘆いた 月は逃げ星は野放図 冬の裏切り
(萩 はるか)世間では些細なことに涙する未熟な頬を打て雪あられ
(kei)あられ降る鹿島の宮の奥深く地震(ない)抑えるという石のあり
028:供(56〜82)
(我妻俊樹)道いっぱいのバスに子供がゆれている 夏のさかりをおぼえておゆき
(詩月めぐ)ほんとうを言わないことが大人なら子供のままでいたい夜がある
029:杖(54〜78)
(月子)杖をつき歩く背中は優しくて ぽっかりまるい陽だまりのよう
(ほたる)頬杖で眺めるきみの泣きぼくろ不埒なことを考えてゐる
030:湯気(51〜75)
(水都 歩) 味噌汁の湯気ゆうらりと漂いて帰りたくなる捨てた故郷
(天昵 聰)お尻だけ白い子どもがかけまわる湯気の向こうに昔が見える
042:鱗(26〜52)
(柚木 良)生臭き鱗剥ぐときまな板に寝かされている場合を思う
(新井蜜)テーブルに鱗がひとつ落ちていて午後の会議に身が入らない
044:鈴(26〜50)
(椎名時慈)あの家の呼び鈴押して名を言えば夜に悪魔の使者来るという
(泉)朝毎に蕾数ふる鈴蘭の真直ぐに立てるかすかな気負ひ
(ME1) 頑なに鳴る鈴の音に皎皎と照る寒月の冷たさを聴く
056:悩(1〜25)
(みずき) 悩みたる夜夜の調べを一枚の蝶と孵さん夢の朧に
(たちつぼすみれ)遊び女の悩まし気なる暗き樹下たれを誘うぞ銀竜草
(こはく)悩みなどない顔をしてずぶぬれの遮断機 きみも泣いているのか
057:パジャマ(1〜26)
野州) 春の夜のパジャマのやうな服を着てぶてぃっくなどもひやかしゆか
(みずき)人型にパジャマ吊られし冬の部屋 人追ふこころ痩せて愛(かな)しき
(梅田啓子) フリースのパジャマを着れば雪の野を跳ねゆくわれは五十路の兎