題詠100首選歌集(その25)

 <ご存じない方のために、時折書いている注釈>
 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して4年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年選歌集をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

             
             
              選歌集・25


002:次(220〜245) 
(みち。)次々とえぐられる傷 君なりのやさしさだからじっとしている
(秋月祐一)途中下車してみようかな次の駅あたりで 海が近づいてくる
(あおゆき) あの頃は一次関数 坂道を自転車で駆け上がったりした
(仁尾智)久々に会っても次に会える日の予定の話で埋まる休日
003:理由(211〜235) 
(繭コトハ) <見学>の理由を告げぬ少女らが教師を値踏みし始める夏
(秋月祐一)理由とか言はなくていい シャッターの降りた地下街ならんであるく
(やや) 沈みゆくでっかい夕陽に理由などあるはずもなく痛いほど赤
(アスパラ)ありふれた理由と共にハイチュウの味わい薄れてやがて無くなる
内田誠)歩きだす理由を探している君とおなじ深さの夜を見ている
009:会話(174〜200)
(海子) こっそりといびつな言葉も紛れ込み積み木のやうな会話は弾む
016:%(139〜164)
(五十嵐きよみ)(%)のような目鼻で泣いている若きピカソが愛した女性
(海子)おどけたるウルトラマンにも見えてきて「%」(パーセンテージ)をつくづく眺む
017:頭(132〜156)
(斉藤そよ) 頭からアスタリスクをぶらさげて眠れば消える春のプリズム
(本田鈴雨) 指さきへ血潮ゆたかにかよはしむ汝がかひなより頭(づ)をそつと上げ
(五十嵐きよみ) 頭痛薬切らした夜はピアノ曲をささやくほどの音量で聴く
(海子)さみどりのちひさき頭並べをりふきのたうほろほろ雪より生れて
025:あられ(105〜129)
(橘 みちよ)ひなあられのやうな子猫が三つ並び眠りてゐたり押し入れの中 
(文)着くたせるあられ絣の小布らを縫ひあはせゆくゆびの悦楽
(砺波湊)雪玉に積み木を隠しているごとき天気記号の《あられ》見上げる
(野良ゆうき)側溝に落ちたあられの冷たさや硬さのごとき僕の優しさ
(本田鈴雨)しろたへの半紙のうへに供ふれば雛あられあはしぼんぼりの灯に
(佐原みつる)雛あられ鉢に盛りつつもろもろの不満が口をついて出る夜
036:船(52〜76)
(ME1) 泣き出せぬ涙を溜めておくために月は満ちゆく上弦の船
(ほたる)紙風船ちいさくたたむ指先でなぞられてゆく僕の鍵盤
(斉藤そよ) どこへゆく船かも訊かず春だから幸多かれとみおくっている
(萩 はるか) ラベンダーの香を纏っても癒えきらず湯船にしずむささくれた胸
(駒沢直)客船の窓はまぼろし目を閉じて海の匂いを街中でかぐ
(kei)君という船を浮かべて夜の海は時化となりたる深いため息
055:乾燥(26〜50)
(振戸りく)ついさっき乾燥機から取り出したまだ温かいタオルを使う
074:銀行(1〜25)
(木下奏)銀行のATMのあの声がたまに恋しいそんな日がある
(梅田啓子)恋ひとつなきまま姪は卒業し銀行員とこの春なれり
(はこべ) 銀行の角を曲がりて夕やけを背にしたきみに出会ったあの日
075:量(1〜25)
(髭彦)たはむれに陽子(ようこ)さんとか量子(りょうこ)さんとミクロな世界をつぶやいてみる
(梅田啓子)犯人がナイフを買ひし量販店ロープも軍手もシャベルもありて
(酒井景二郎) 明け方のネットゲームのサーバーに量子化された僕たちがゐる