題詠100首選歌集(その26)

           選歌集・その26


001:おはよう(234〜260)
(繭コトハ)明け方のケモノの夢から醒めぬまま世界に挑みかかりし「おはよう」
(宵月冴音)おはようと用意していたひとことをかければ卯月世界はみどり
(沼尻つた子) おわらせるためのはじまりおはようを白夜の国のことばで告げる
(美木) いつまでもずっと続いていくはずの朝初めての君におはよう
010:蝶(176〜200)
(海子)いづこより来たれる蝶か想ひ合ふこころのやうなふたひらの羽
(あおゆき) 沈む指がわたしを留める 標本の蝶の鱗粉かすかに滲む
(翔子) ワンピース黒くひらひら蝶となり十三歳の夏を追いゆく
018:集(133〜157)
(本田鈴雨) おとがひに泣かぬ気持ちを集めゐる横顔美(は)しき五月のをとめ
(惠無)春霞腕を伸ばして集めれば風を誘って夏が駆け出す
(さかいたつろう)ポケットの小銭を集めて海に行こう 季節はずれのサンダルをはいて
019:豆腐(132〜158)
(遠藤しなもん) お豆腐でできたかまぼこ噛みしめる 昨日のことは昨日のことだ
(峠加奈子)お豆腐の木綿か絹か尋ねると「シルク」と返す喜寿の我が祖母...
(水音) 祝福はされない二人 おぼろ豆腐のやわらかさにだけ許されている
031:忍(77〜103)
(ゆきすずめ) 足音もたてず布団に潜り込み 僕の隣で忍者は眠る
(青野ことり) さりげないご機嫌伺い便箋にそっといつもの香り忍ばす
(野良ゆうき)忍び寄る大きな影に消されないように僕らの影を濃くする
(本田鈴雨) はつこひのひととゆきゆく道の辺の忍冬の香にはぢらひし夏
056:悩(26〜50)
(はこべ)この坂を悩み抱きて上りし日夕焼けだけが美しかった
(流水)悩み事記す日記は閉じたまま半熟玉子のやうに眠りぬ
076:ジャンプ(1〜25)
(髭彦)ジャンプして空中高くどこまでも跳びゆく夢を絶えて見ざりき
(酒井景二郎) 水曜日古紙囘收の若草のヤングジャンプに雪は降り積む
078:合図(1〜25)
(此花壱悟)コーヒーの合図は内線3回で失業の兄ぬっと出てくる
(みずき)櫻咲く合図のやうにベルの鳴る携帯にぎる半そでの朝
079:児(1〜25) 
(行方祐美)嬰児は桃の季節に育ちおりくちびるひらりと鳴らしはじめて
(みずき) 女児に挿す花の簪ある時は花壇の春が咲かす一輪
(Asuka)制服の夢を語らうふたりぼっち 朱色に染める児童公園
080:Lサイズ(1〜25)
(行方祐美)Lサイズの玉子こんもり光る卓きのうの言葉の残骸がある
(みずき)Lサイズ丈ながく穿く儚さを黙(もだ)して過ぐる街を倦みたる
(梅田啓子) 洋服はLLサイズと目測す やはきひかりのルノアールの裸婦
(中村成志)整理するたびに少なくなってゆくLサイズだけ仕舞う引き出し