題詠100首選歌集(その27)

     選歌集・その27



011:除(164〜188)
(岩井聡)少年は胸に薊の繁るゆえ除草剤呑むときの真はだか
(海子) 子とあなた並んで笑ふ写真だけ除いてわたしのアルバムがある
(イツキ) 除けられないことだってある夕暮れを見て泣く少女を僕は見ていた
(吉浦玲子)思慕ひとつくるしみ除けし若き日のごとく翳りぬはつなつの陽は
(沼尻つた子)除籍にて学歴とだえし店長の黙々冷めたるポテト廃棄す
(寺田 ゆたか) 今年から配偶者控除はないといふ友の目を見ず杯を差す
(美木)除雪車の轍を追って歩いてた三歳の冬写真が5枚
013:優(162〜186)
(音波)優しさを盗みたくなる人といて蛍光灯もつけずに泣いた
(渡邊 琴永)夕映えをもっと濃くした薔薇のごと優しさ伝う日はそこに在り...
(吉浦玲子) 出会ひとはあるとき無残 あさがほの芽を濡らす今朝の優しき雨も
(沼尻つた子)ばあちゃんの風呂敷は別に地球への優しさとかは包まなかった
(寺田 ゆたか) 一年生「優」のハンコに笑みてゐる桜の中の「よくできました」
(あおゆき)さみどりの軌跡を描くつばめたち優柔不断の似合わぬ五月
027:消毒(106〜132)
(文) 消毒のにほひとともに立ちかへる切除されたるものの蒼白
(イツキ)傷口に消毒液がしみるほど君の笑顔が悲しく揺れる
(きくこ)笑いつつ消毒液に手を浸し落つる涙に日は傾きぬ
032:ルージュ(77〜101)
(村本希理子) マチス見に行きませんかといふ声に泳ぎつづけるポワソン・ルージュ
(萩 はるか) 泣き疲れルージュの剥げた横顔に惹かれる きみはもう弱くない
(野良ゆうき)ルージュ引く君の背中が近すぎて見えなくなった朝までの道
(天野 寧) ルージュより赤い嘘だけ残したらそっと出ていく夜明けの前に
ひぐらしひなつ)通うべきムーランルージュ持たぬゆえ港を濡らす雨を見ている
(きくこ)化粧室今宵はシャネルきどってるルージュも微笑むオペラの幕間
038:有(53〜77)
(ほたる)突然の雨の手口に騙されて有楽町で買う赤い傘
(村本希理子) 共有といふあやふやな体温に違法コピーが肌寄せてくる
054:笛(26〜50)
(椎名時慈)おだやかな笛の音色に愛撫され見えないことが怖くなかった
(萩 はるか)びいびいと鬼灯笛を鳴らしてた初恋未満の淡いあこがれ
(村木美月) 何気なく君が口笛ふく曲もかけがえのないメロディになる
077:横(1〜27)
(船坂圭之介) 横風に髪靡かせつ傍らの馬を愛(め)で居り都井岬(とい)の佳きひと
(梅田啓子)横なぐりの雪の痛さを言ひてのち『北のまほろば』君はまた繰る
(振戸りく)いつまでもあなたの横を離れないように時間を切り取る写真
(磯野カヅオ) 中空に遮るもなく日の当る人待つ横に夏立ちにけり
081:嵐(1〜25)
(行方祐美)嵐山の和菓子処の老松に夏柑糖が冷え初めにけり
野州) ひと束の修羅としてゆく春の底青嵐起てどひかり乱れず
(夏実麦太朗) ことのほか会話もはずむ不可思議な嵐の夜は静かに更ける
(はこべ)奥多摩の山の小駅に青嵐の光あふれて風の道見ゆ
082:研(1〜25)
(みずき) 月光に研ぎ澄まされし公園のベンチに残る帽子の女
(船坂圭之介)”研北”と添へ書きのある便り来しまた旧(ふる)き友失ひし 悔
(那美子) 砥石にて研がれし刃物手に取りて  祖母が溜息吐く春の夜半(よは)
(梅田啓子)鎌を研ぐ音しやきしやきと初秋の朝の冷気を切りて聴こゆる
(ME1) うなだれる夜の空気を研ぎ澄ます グリーンムーンは卯の花の月
(中村成志) 一晩の研究成果を胸に秘め昨日の顔できみに手をふる
084:球(1〜25)
野州)七月の空に眩みて落としたる球はろばろと老ゆる少年
(船坂圭之介) 球なせる汗のいとしさ・春の陽の下処女(をとめ)等の光る肉叢(ししむら)
(ME1) 球体の渕だけ見せる 二日月 笑顔のままに 沈んだ夜空