題詠100首選歌集(その30)

 関東も梅雨に入った。今日もうすら寒い一日。カーディガンを羽織ってパソコンに向かっている。

       
        選歌集・その30


006:ドラマ(212〜236)
(美木)この恋はドラマみたいと思ってたこんな陳腐な別れも含め
(星野しずる)街じゅうの明日の恋を解き放ちドラマはきっとただのミネラル
(野田 薫)ドラマから抜け出してきた夏の夜 嘘をこぼれるほど手に持って
内田誠)平凡なドラマに沈む真夜中に息継ぎをする眠れない夏
(土州) 弾んでる会話の中で観てないと言えず頷くドラマの話題
012:ダイヤ(175〜202)
(宮田ふゆこ)会えないひとがいる週末をを瀬戸電のダイヤていどに忙しくして
(A.I) 流星の純粋すぎる蒼い火がダイヤモンドを空に還した
(やや)ダイヤルをゆっくり回しモノクロのあの日に帰る夏のゆうぐれ
029:杖(105〜129)
(本田鈴雨) 夫となるひとに役目を引き継ぎてわが杖ふかくねむりたるまま
(佐原みつる)窓際のテーブルに頬杖をつく彼女のことを聞かせてあげる
(ワンコ山田) 沸点の低い涙は頬杖を滴り濾過への流れを選ぶ
(寺田 ゆたか) 歌会に杖突いてくる老い人の歌みな若く空を翔けをり
030:湯気(101〜126)
(野良ゆうき)朝食の湯気のぼらせてそれぞれの一日始める真冬の家族
(千歳) 家で待つ君と一緒に肉まんの 湯気囲む夜を想う幸せ
(花夢)お風呂からあふれる湯気はすこしだけわたしの憂いをふくんで重い
(砺波湊) 茶房にて切り出せないまま蔵(しま)われた言葉が湯気をたわませている
035:過去(83〜107)
(kei)過去となる一日を過ごす観覧車さやり五月の風が渡って
ひぐらしひなつ) 過去形がひどくあかるく裂けていて一輪挿しにさす女郎花
(村上きわみ) 過去というまるい時間をうちがわにおさめて眠るひだまりの猫
(佐原みつる) 過去形で話していたということが今頃になって気になっている
(野良ゆうき)過去を消すように洗顔した夜の排水溝がつまってしまう
(五十嵐きよみ) 過去にまで嫉妬している愚かしさ戯曲の男が今日は近しい
044:鈴(51〜75)
(七十路淑美)チリチリと江戸風鈴が歌います嫁ぎし娘の部屋の窓辺で
(萩 はるか)鈴掛の木陰から見る空のいろ目にしみるのはかなしいしるし
(原田 町) ケータイなど無き世なりせば待ちぼうけ銀の鈴での時間の長し
(ほたる)俯いて目を伏せている鈴蘭の透きとおる頬飽くまで白く
(村本希理子)米研げばどこかに響く鈴の音 台所とは宇宙樹の洞
(小早川忠義)「目立たない方の鈴木」と呼ばれゐる同窓会の常任幹事
(本田鈴雨) 老衰に最期の日々をねむりゐる猫の鈴の音なき五月闇
058:帽(27〜51)
(七十路淑美) フィヨルドにそびえる峰はマオタイ・ピーク僧正の帽子に因む名と聞く
(月子) 絶対に君に言えない過去隠し帽子を深くかぶる夏の日
061:@(27〜51)
(ほきいぬ)アドレスを指でなぞれば くるりんと @(アットマーク)は僕を誘(いざな)う
(七十路淑美) 新版の広辞苑買いてまずはじめ引いてみたるは@記号
(椎名時慈) キミの名に@(あっとマーク)で続くのは従者としての僕のドメイン
(萩 はるか)変換ができる笑顔を添付する@(アット)docomoじゃない友達へ
088:錯(1〜26)
(みずき)錯覚の愛が苔むす夜の底ひ足掻く指から洩れる月光
(木下奏)錯覚をおこしてキミが幸せだと言うならボクはピエロになろう
(梅田啓子) 情報の錯綜する春 植木鉢を庭に出だせば蟻の這ひでる
(中村成志) ありふれた言葉がひとつ消えるたび錯乱してゆくキンポウゲの香
096:複(1〜25)
野州) 夕暮れの空をぱたぱた複葉機飛んで往きしを児らが追ひたる
(船坂圭之介) 既にして姿消したり複葉機をさなきわれの夢の一つが
(みずき) 複雑な思ひに揺れしあの頃を生きて又問ふ 君莞爾(くわんじ)たれ
(振戸りく) 物事を複雑にする方が好き 時間をかけてわたしを解いて