題詠100首選歌集(その32)

  やっと最終題まで来た。去年第100に届いたのは、7月9日の「その32」だったので、去年よりは約1月早いことになる。もっとも、途中の97は、まだ24首のままで止まっているので、厳密に言えば「100まで来た」とは言えないのかも知れない。ついでに言えば、一昨年は5月初頭に100題に届いているので、それよりは1月遅い。
 第100の「おやすみ」、情感のこもった歌が多い。「おやすみ」という言葉は、人をロマンチストにさせるのだろうか。(「おやすみ」と言う相手にもよるのかな?)


       選歌集・その32


004:塩(226〜252)
(峠加奈子)今日しまうセーターを次着るときはいい塩梅の二人でいたい...
(瑞紀)払われし手のゆき場所のあらざりてひとり塩湖にぽかんと浮かぶ
005:放(219〜243)
内田誠)どちらかが放せばとどく星空を見上げて眠る僕たちの夏
(峠加奈子)あの時と同じ制服着なくても君と歌えばいつも放課後...
(A.I)大自然ならぬ深夜のファミレスに放牧されているこどもたち
(サヨ)遠浅の記憶の海の向こうへと放物線を描くサヨナラ
008:守(202〜226)
(星野しずる) とけてゆく巨大な森の夢を見て木陰はきっと風の守護霊
(Re:)守れない約束ばかり増えていく君の涙を思い出してる
(村上はじめ)携帯に残されているひと言をお守りとして今日も働く
(翠)「景観を守りましょう」の看板に咲く色あせたペンキのすみれ
016:%(165〜190)
(美木)0.1%(レイコンマイチパーセント)の偶然を捨て切れぬままこの街に住む
(吉浦玲子) 相対化するとき見失ふなにか円グラフわきの%に見つ
(市川周) 袖触れしあなたがそっとさしだしたティッシュ金利は13.5%(じゅうさんてんご)
(白辺いづみ)すれ違う (回転ドアは%みたいなかたち) だあれもいない
028:供(108〜132)
(イツキ) あなたとの思い出に捧ぐ供花には赤の眩しき薔薇を購う
(本田鈴雨) ワンカップ供へられたる黒みかげの下よひどれの骨かるからむ
062:浅(27〜51)
(西原まこと) どこまでもつづく遠浅エメラルドグリーンの海 もすこし生きる
(ME1)浅はかな想いに揺れて下弦月 なくなる時を待つだけの夢
(遥遥)夕焼けに頬をうたれてうつむいて浅き心を削りつつ夏
(岡本雅哉) キャンパスの芝のにおいをとじこめて浅黄色めく卒業文集
(椎名時慈) 部屋寒く眠りは浅く闇深く音より遅く時計が動く
094:沈黙(1〜25)
(此花壱悟)沈黙は駅舎にしばし腰掛けてつばめのひなをずっと見ている
野州)やや長き沈黙ののち歪みたるゑがほつくりて別れきたりき
(中村成志) 茶を啜る僕らのあいだかたかたとゼンマイ仕掛けの沈黙が行く
095:しっぽ(1〜25)
(行方祐美)雲のしっぽひょろんと伸びる春ひと日嬰児の泣く波のありなん
野州)青春のしつぽもすでに擦り切れてゴールデン街早早と去る
(夏実麦太朗)なぜしっぽ無いんだろうと娘らは思いもよらぬ問い投げかける
(梅田啓子)顔を上げわれを見てゐし柴犬がフンと横向きしつぽを回す
098:地下(1〜25)
(梅田啓子) 地下足袋にペダルこぐ老いわれを抜く荷台に鍬を一本積みて
(詠時)地下深きタイムカプセル少年の夢は化石となりて睡りぬ
(ME1) 地下水に浮かぶまぁるい月覗き 井戸は生きてる 過疎の峠で
100:おやすみ(1〜26)
(行方祐美)おやすみは一つのさよならゆっくりと地球が回るリズムを拾い
(此花壱悟)キミがもし眠るのならばこの星の花のベッドでずっとおやすみ
野州) これが最後と知りていつものやうに言ふ「おやすみ」羞(やさ)し君とわれとに 
(船坂圭之介) おやすみとつい声掛けて亡妻の居ぬ空間を見詰むしばらく
(みずき) おやすみの電球消せずプロフィール見つめつづけぬ 明日はさよなら
(木下奏)あの部屋の灯りは消えていないけどもうさようならそしておやすみ
(髭彦)さりげなくただおやすみとささやきていつか眠らむ永久の眠りを
(詠時)百首なる言の葉吐いて繭として暫し羽化までおやすみなさい
(振戸りく) 今日はもうこれでおしまいおやすみとわたしに告げるための「おやすみ」
(中村成志)音という音を吸いこみ夕凪がそろそろ終わる海よ、おやすみ