題詠100首選歌集(その34)

           選歌集・その34


002:次(246〜270)
(星野しずる)きえてゆくかすかな夢のはずだった夜空はまるで君の四次元
(高辻まゆみ) 不登校メールを打つのも億劫で グロス塗る手もお天気次第...
(Re:) 少しだけわかったことがあったから次逢う時はスカートで行く
(あんぐ) 次々と顔のない人現れてすぐ消えていく真夏の祭り
(近藤かすみ)ジーンズの穴からのぞく膝こぞう次の季節の風を待つてる
(寒竹茄子夫)晩冬の三次(みよし)の街に牡蠣啖ふ 咽喉(のみど)墜ちゆく死をはらむ海
010:蝶(201〜225)
(祢莉)珍しく煙草の煙にむせる朝飛び去った蝶はもう戻らない
(やや)あわくあわく光まみれの花びらが無数の蝶を地面にこぼす
(瑞紀)戻り来し手紙破れば眼裏を紋白蝶が渡りゆくなり
(紫月雲) 質量の自由にならぬ憎らしさ蝶に想いを託す日も在り
(寒竹茄子夫)春の夜の恋人たちは酒亭(バー)に消え銀の蝶番しづかに軋む
018:集(158〜182)
(美木)電線に集うスズメの五線譜を歌う小さな手繋ぎ歩く
(吉浦玲子)薔薇色のちらし沈めておのおのの扉(と)は朝翳る集合ポストに
(翔子) 手放すも残すも惑い爪を噛む黄ばみし全集さくらひらひら
(あおゆき) 誰からも触れられぬ日の物思い過去が集まり肌えを飾る
(サオリ) 2年間かけて集めた『大好き』をティッシュにくるんで月に捨てた日。
(はづき生)色褪せた集合写真なでてみる明日の服は何を着ようか
019:豆腐(159〜183)
(翔子) 蘇というはチーズと豆腐の中間と講釈踊る鶯の宿
(紫月雲)夕暮れの魔の時を背に絹ごしの豆腐を無心に崩しておりぬ
025:あられ(130〜154)
(萱野芙蓉)触れし手のかたち残れる胸ならむあられ小紋に冷やされてなほ
(虫)お茶漬けに浮かぶあられをつまめずに明るく揺れる菜の花ばかり
(吉浦玲子) 中年のとどこほり多き日々の夜にサラダ風味のあられ食べをり
040:粘(76〜100)
(駒沢直)頬つつみ粘りつくような指先で君が問うのは過去か未来か
(本田鈴雨)死にちかき猫の泪をぬぐひしに粘性かそかありてかなしき   
(橘 みちよ)かつて子が夢中にこねし小麦粘土触るればほのか手肌に温し
(佐原みつる)大根を摩り下ろしつつもう少し粘ればよかったかと考える
ひぐらしひなつ)誰も知らぬ街を往きつつあの夏の粘る記憶をまだ生きている
048:凧(52〜77)
(はらっぱちひろ)やぶられた誕生月のカレンダー誰のものでもない凧になれ
(萩 はるか)凧揚げをする子はどこへ消えたやら見上げる空は電線の奥
(泉)駄菓子屋の壁に飾られ奴凧空舞ふ夢をけふも見てゐる
(富田林薫)だれのものでもない風にまぎれこむためにつながる凧糸を切る
050:確率(53〜77)
(原田 町)生存の確率という選択をなされし海の今日は静かに
(村木美月) 来世まためぐり逢えうる確率を今生のなか思いめぐらす
063:スリッパ(27〜51)
(西原まこと)時間だけずんずん流れのこされた青いスリッパを抱いて眠る
伊藤真也)ベランダに脱ぎ捨てられたスリッパの体温ひらり奪う夕風
(流水)スリッパを脱ぎ捨ててみるそれだけのことにこんなに時間をかけた
(村本希理子) パイル地のスリッパよろこぶ足のうら梅雨の晴れ間を樹の花匂ふ
064:可憐(26〜50)
(新井蜜)ひとりだけ可憐な花となるために金魚をすくう夏昼下がり
(流水) 可憐なる薔薇の真紅についポロリ隠した罪を話しはじめる
(こはく)こきざみに揺れる睫が可憐だと思うからまた泣かせてしまう
(原田 町)赤ちゃんの青い瞳の別名もネモフィラの花可憐に咲けり