題詠100首選歌集(その35)

 <ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して4年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

             

           選歌集・その35



001:おはよう(261〜285)
(Re:)おはようを交わすことなく部屋を出る君の足音気付かないフリ
(紫月雲)四文字のかなと絵文字で届けらる愛憎もあり今日もおはよう
(羽根弥生)百粒のグリーンピース茹で上ぐる おはようおはよう夏の食卓
(やすまる) 階下にておはようと咲くこえのため夢から体をひきずりおろす
(すろー) おはやうと友へ言ひしが二歩先の男子振り向きおはやうと言ふ
(近藤かすみ)貝ボタンにちひさき虹の生るる朝 おはやう、お早う、少女ら笑ふ
011:除(189〜213)
(A.I)湿っぽい安アパートに暮らすため除菌も除霊もファブリーズする
(琴乃) 掃除機の音で目覚める日曜日なぜだかいつも晴れてた気がする
(あんぐ) やるべきは「すべて選択」そして「削除」 群青の空にカモメが一羽
013:優(187〜211)
(土州)いくつもの実現しない約束は僕の弱さと君の優しさ
(里坂季夜) 待つことの辛さと甘さ知るひとの「おかえり」という声の優しく
(永時) 6月の天気が味方する日には優越感とにらめっこする
(新井恭子) 優しさがまとわりついてくるように車道を黒く濡らす霧雨
(拓哉人形)苦しさを気付かせまいとする君の他人行儀な遠い優しさ
020:鳩(157〜184)
(美久月 陽)さみしさと語らう夜を数えつつ今ここに住む鳩の来る町
(あおゆき)鳩はただ象徴として飛ぶばかりひとが死ぬ日もたくさん死ぬ日も
(はづき生)たれこめた雲をめがけて鳩が飛ぶ今日も昨日と変わらぬ一日
ruru)何故かそを見つめることは出来ぬまま 鳩の瞳はかなしさの色
(たかし)鳩時計悪魔のスイッチオンになるあなたの明日土砂降りになる
033:すいか(108〜132)
(五十嵐きよみ) うたた寝の夢の続きにふれてくるくちびる薄っすらすいかの匂い
(暮夜 宴)甲虫とすいかは同じ匂いだと言い張る正也、4才の夏
(虫)人影のない店先に鮮やかな午後のすいかが割れて夕立
(文)すいかずらはつか黄ばみてゆくときのかをりを知るや少女をさなし
041:存在(79〜103)
(野良ゆうき)存在の理由(わけ)を互いに問わぬまま空は空だし海は海だし
(西巻真) 存在はうつろ倉庫のうちがわにくらやみがただ拡がることの
(橘 みちよ)母といふ存在ゆゑに愛されし時過ぎていま夢の覚めぎは
ひぐらしひなつ)絶対に存在すると言い張ってもう横顔で窓を見ている
(青野ことり) 存在の証明なんていらなくて一瞬にしてあの日のつづき
(虫)カタツムリの存在頬に感じつつ紫陽花のなか紫陽花でいる
(帯一鐘信)  どこまでも変らぬままの存在に溜息をつく螺旋階段
(吉浦玲子) 甘噛みのやうな愛にてたしかむる<存在の耐えられない軽さ>
042:鱗(78〜103)
(本田鈴雨)水無月のみづにこころを放つとき銀鱗もたぬわれを悔ひたり
(岩井聡)アチェクルドチェチェンチベット川底に光るは剥がれ落ちた鱗か
(橘 みちよ)きみ発ちしあとのベッドは目に見えぬ鱗粉の散る朝のひかりに
(佐原みつる) 鱗のない魚のような人だねと言われて風になびくストール
ひぐらしひなつ) 鱗持つからだを寄せて思い出す限りの相聞歌を教えあう
(青野ことり)空いろを翻しては沈みゆく鱗ひとひら落としたままで
(一夜)剥された痛む片鱗見つけては ステッィク糊で張り付けてみる
065:眩(28〜52)
(ME1) 雨上がり虹をくぐらせ沈む陽と眩い契り光風霽月
(新井蜜) 眩しくてすいかの種を吹き出せば下駄の向こうに飛ぶ昼下がり
(流水)ブラインド少しひしゃげて外を見るさして眩しい朝ではないが
(村木美月) アスファルト焼けた匂いで思い出す眩暈するほど恋におちた日
(村本希理子)夏の日の横断歩道の白線に眩む蝙蝠傘(かうもり) 落としてしまふ
(イツキ) 目も眩むほどの甘さが欲しくってあなたのために買う甘い酒
066:ひとりごと(29〜53)
(酒井景二郎)とりあへずもう一杯を注ぎ足さう ひとりごとには作法は要らぬ
(ME1) 語らせてくれるのだろうか ひとりごと 淡月暮れる酔いどれの街
(岡本雅哉)ちょっとしたひとりごとですケータイの電源を切りさけんでいます
(新井蜜) ひとりごと言いつつ歩く母のため光る小石をひろう春の夜
(こはく) 着古した感情のままひとりごとにするのがうまいこいびとと会う
(萩 はるか)ひとりごと言うように鳴く細いこえ眠い小犬をベッドに乗せる
ruru) 君の見ない文字は全てがひとりごと 安堵を覆う虚しきブルー
067:葱(27〜51)
(ME1)畦道の夕暮れ並ぶ 葱ぼうず 月に引き継ぐ時を見届け
(月子) 何枚も嘘を重ねて生きていく だから悲しい我と玉葱
(新井蜜)葱坊主数え終わった頃にまた一番星がまたたくだろう
(流水)トロトロと玉葱スープ煮込む夜優しくなれぬ心が痛む
(玻璃) ひとりなら使いそびれもするだろう? 葱ぼうずにそう言い訳をした
(イツキ)守りたいものも選べず駆け抜けた浅葱の羽織に染み込んだ夢