題詠100首選歌集(その36)

 7月になったが今日はうすら寒く、7月の季節感はない。このところ新しい文章を書く意欲も湧かず、このブログは専ら数日に1度の選歌に終始している。ぼつぼつほかのことも書こうかと思ってはいるのだが・・・。



        選歌集・その36

004:塩(253〜277)
(近藤かすみ)鍋の湯にひとつまみの塩ふりたればブロッコリーの森は華やぐ
今泉洋子)祖母(おほはは)が胡麻で和へたるおくもじの塩梅思ひ菜を刻みゆく
(勺 禰子)あたらしき塩の香としてわたくしの肌へに残るおもかげひとつ
(冬鳥)約束の時間を過ぎて原っぱはシオカラトンボだけの原っぱ
駿河さく)泣くことを生業として暮らしたい塩辛い指噛みしめている
014:泉(190〜214)
(紫月雲)頼りない夜は心の奥底に涸れぬ泉の在り処探しぬ
(瑞紀) 寄る辺なる泉のことをジンニーヤが語り終えればサハラの夜明け
(本田瑞穂) 逃げ水が泉のようにあらわれてだんだん揺れなくなっていく胸
026:基(132〜157)
(間遠 浪)恋人を基点に半径五米ほどを愛せばそつなく五月
(A.I) 基礎工事終えたばかりのつり橋のこちら側からした頼み事
(田丸まひる) 1ミリも傷つかないって誓うからわたしの基盤にふれてください
027:消毒(133〜160)
(寺田 ゆたか)廊下まで消毒液のにほひきて ゆまりの音す夜半の病棟
(吉浦玲子)たどきなき夜の記憶に哺乳瓶の消毒の湯の滾(たぎ)るを待ちき
(蓮池尚秋)消毒をしてない傷が化膿したみたいに月が痛そうな空
(拓哉人形)消毒というより解毒 部屋中の君という名の地雷捨て去る
043:宝くじ(76〜100)
(岩井聡) 桜桃忌の619でナンバーズ宝くじを買った、雨が匂った
(大辻隆弘)しろがねの紙ひとひらを胸に挿す夏のひかりを呼ぶ宝くじ
(橘 みちよ)ゆきなれし書店も茶房もすでに無く宝くじ売るたばこ屋のこる
049:礼(51〜77)
(原田 町) 礼状のなかなか書けぬ日の暮れて卯の花腐たし雨の強まる
(ほたる)燃えていたカンナが終わり告げるから従い歩く夏の葬礼
(村本希理子)ひとりづつ礼(ゐや)するやうに入りきては今宵の酒をこよひ分けあふ
(寺田ゆたか)きざはしに夕べの光とどまりて巡礼びとのあまた憩へる
(野良ゆうき)起立・礼・着席の声うわずって置いてけぼりの春の教室
051:熊(51〜75)
(はらっぱちひろ) 眠れない夜はウサギのいる絵本はしゃいだ夜は小熊の絵本
(カー・イーブン) 大人には見えない熊が迷いこみ死んだふりする午後の教室
(kei)一筋の心に歌は生まれ出る熊野(ゆや)の悲しみ揺れるさざなみ
(岩井聡)夜の機内には熊だけが覚めていていつか地上は祭りを終える
(寺田ゆたか)母思ふ熊野(ゆや)の舞こそあはれなれ花に混りて雨の降りくる
(橘 みちよ) 「業平」とふあやめの蕊に熊蜂のまつはる日向羽音もの憂く
068:踊(29〜54)
(月子) オルゴールの蓋を開けると踊りだすバレリーナはいつも悲しい顔して
(村本希理子) 手をつなぎ踊ることなき日本の盆のをどりの踵はさむい
069:呼吸(29〜53)
(ME1) しんしんと呼吸をしない街はただ深夜を焦がし月を伏せ待つ
(新井蜜)深呼吸しても苦しいこの町の気圧の谷がとても深くて
(萩 はるか)胸に手を当てて呼吸をたしかめる寝顔いとしい犬を起こして
(天国ななお)雑踏にまぎれ僕らのつなぐ手はキスのかわりの皮膚呼吸する
070:籍(28〜52)
(ME1)月の居ない湖上に浮かぶ僕たちは 入籍できぬ理由を探す
(村本希理子)ちちのみの父の地縁の本籍を失ひたりき婚成りたれば