題詠100首選歌集(その40)

 久々に2日続けて遠出をしたら、少々くたびれた。暑さのせいかとも思うが、あるいは、考えたくないことではあるが年齢のせいなのかも知れない。



      選歌集・その40



032:ルージュ(128〜152)
(emi )遠くなる今朝の記憶を呼び戻し真夜中にルージュ引けば鮮やか
(キヨム)ガラ空きの夜行列車でひくルージュ これから旅に出るだけなのに
(あおゆき)ブルージュの雨の匂いが似合わない別れはモノクロームに沈む
(ゆふ)たとへきみが気付かなくてもかまはない今度のルージュは赤き薔薇色
(わたつみいさな。)嫌いだということにしてあの時のさくら色したルージュを潰す
038:有(103〜128)
(五十嵐きよみ) 所有格つけて呼んだり呼ばれたりしながら今夜は踊り明かそう
(砺波湊)足音の硬き日なれば有人の改札口を足早にゆく
(はづき生)有人の施設がどんどん減ってゆき無人の街に無人が動く
(あおゆき)有と無が接し過ぎたる野に生ふる花は色なく音なくゆれる
047:ひまわり(76〜102)
(拓哉人形) 少年の夏の記憶に添いおりぬ ひまわりはそう太陽の花
(佐原みつる) 一輪を花瓶に挿せばそれだけであかりが灯るようなひまわり
(FOXY)<ひまわり>は熟女専用喫茶室 BGMはいつもボサノバ
(五十嵐きよみ)執拗にまた問い詰めてひまわりに嗤われているこころの狭さ
048: 凧(78〜102)
(寺田ゆたか)糸切れて宙(そら)に失せたる凧(いかのぼり)夕つ茜に熔けてゐるらむ
(沼尻つた子) 飛び方を忘れし凧にメーヴェなる名を付け風の谷へと帰す
(本田鈴雨)凧と吾と空をはさみて引き合ひし記憶のかなた冬日かがよふ 
(佐原みつる) そして糸が絡んだ凧を膝に乗せ昨日の続きを話しはじめる
ひぐらしひなつ)遠き野に凧墜ちる日の気の迷いだったのでしょうあのくちづけも
(五十嵐きよみ) あおぞらも風の強さも知らぬまま褪せゆく展示室の凧たち
054:笛(51〜77)
(はらっぱちひろ)帰りたい場所に吹く風アルコールわずかに含みながら口笛
(ほたる)あの夜に確かに聞こえた指笛が雨に塗(まみ)れて戻る明け方
(村本希理子)石笛を手に温めてゐるばかり なかなか夏になり切れぬ夏
(水都 歩) 沈黙が苦しくなって闇雲に鳴らす口笛心が寒い
ruru) 夜半をゆく夜汽車 汽笛が迫るたび 紅き野花の棘一つ増え
ひぐらしひなつ) 雲雀笛購いて行く遠浅の海に人魚が人を恋う日は
(寺田ゆたか) 背を伸ばし山車の上に立つ乙女子の笛の音冴ゆるふるさとの夏
055:乾燥(51〜75)
(村本希理子) 窓辺にて乾燥してゆく大根の捩れるままに時を逸する
(蓮野 唯)乾燥し日光染みた敷き布団倒れ込んだら五月の香り
(野良ゆうき)ひび割れた言葉の欠片(かけら)転がって乾燥都市は雨乞いの街
(拓哉人形) 乾燥機がらがら回り僕達のなにかが終わる音を掻き消す
ひぐらしひなつ)死のように乾燥機停まり海芋のみ息づく夜半の矩形に沈む
056:悩(51〜75)
(原田 町)サイクロン地震思えばわが悩みとるに足らぬが右膝痛む
(はらっぱちひろ)急かされて歩幅も進む方向も悩み損ねた末の満席
(ほたる) 煩悩の暗き灯りに手を翳し蝋燭を消すほとりほとりと
076:ジャンプ(26〜51)
(流水)ジャンプすることを忘れた蛙には土手の日暮れの風は寂しい
077:横(28〜52)
(玻璃)いつだって楽しんでいたあのひとの横顔 だけを記憶している
(流水)なにひとつ変わらぬ僕の横にいて影だけ少し年老いてゆく
(月子)真夜中に君の横顔眺めてる 幸せはほら こんな近くに
078:合図(26〜50)
(晴家渡) わからない合図ばかりをおくられて僕はあしたに踏み出せずいる
(玻璃)車体より陽炎が先 駆けてくる 晴れた真昼の声無き合図