題詠100首選歌集(その45)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して4年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

             

      選歌集・その45


021:サッカー(188〜212)
(近藤かすみ) 夜更けても茶の間でサッカー観てをりし子は背中から大人になりぬ
(太田ハマル)サッカー場の天蓋ひらく心地して夏緑樹林をわたるはつなつ...
(内田かおり)少年はサッカーゴールの脇におり真一文字に口を閉ざして
今泉洋子)あらあらと齢(よはひ)重ねて蔵(しま)ひゐしサッカー生地を土用干しする
(里坂季夜)どうせならたくさん笑う夏にするシアサッカーの半袖を着て
027:消毒(161〜185)
(ジテンふみお) まあ一杯飲んで愚痴れば今日のこと消毒できるような気がする
(桑原憂太郎)とりあへず消毒すれば泣き止むと養護教諭は聖母のごとし
佐藤紀子) 退院の荷物と共に戻りくる消毒薬の強き匂ひが
044:鈴(104〜128)
(勺 禰子)その鈴をもとめし秋の神宮寺に君があゆみて観る曼珠沙華
(ezmi)何度でも鳴らす呼び鈴きれぎれに祭囃子の遠ざかりゆく
(駒沢直)黙しても目から言葉は流れでて転がる鈴の告げるさよなら
(萱野芙蓉)鈴を鳴らし猫去りしのち廃園は廃園としてみづからを閉づ
(ワンコ山田)歓声も波もくぐもり夏の日のビーチボールの内側の鈴
月夜野兎)縁側にしまい忘れた風鈴の悲しき音色と秋の三日月
045:楽譜(102〜126)
(美木)真ん中の楽譜一枚抜けていて永久(とわ)に終われぬショパンのワルツ
(いろは)たくさんの音符の並ぶ楽譜にも恋の行き先見つけられない
(大辻隆弘)君が弾く楽譜をそつとめくりたいきみの左にしづかに立つて
(砺波湊)工房に鑿槌のおと 仏師には木目は楽譜なのかもしれず
(暮夜 宴)おはようと歌う小鳥のさえずりをそっと楽譜に記す日曜
(五七調アトリエ雅亭)亡き父の 部屋で見つけた 書きかけの 楽譜が語る 密やかな夢
046:設(95〜119)
(はづき生) 併設の施設の設計担当の設楽さんとの席を設ける
(天鈿女聖) 設けられた 献花台には 折り鶴の 数が膨らむ 八月六日
(大辻隆弘)北設楽豊根のむらの花まつり見まほしくして見ずかなりなむ
(暮夜 宴)設楽ってきみの名前が読めなくてお友達にもなれない火曜
(やすまる) 残された時間はすでに数日という設定でほほえんでいる
055:乾燥(76〜100)
(美木)リモコンを握り見つめる画面越し無味乾燥な返事をひとつ
(暮夜 宴)投げ込んだ言葉がやけに湿っぽく堂々巡りする乾燥機
065:眩(53〜77)
(岩井聡) 何もないけど夕日ぐらい見ていけと父が眩めば子も眩む川
(ほたる)甘やかな眩暈に逆撫でされながらみづの記憶を辿る指先
(カー・イーブン)ケータイに眩しい空を閉じ込める風の渋谷のきみがナウシカ
(寺田ゆたか)またたきを幾度すれども眩しさの消ぬひとありて今日も遇ひにき
066:ひとりごと(54〜78)
(岩井聡)ひとりごとぐらい犬でも言うだろう夜のガードのその先の夜
(kei)すんすんと伸びる真竹に夏の日のひとりごとなら寂しくないわ
(小椋庵月)なんとなくほったらかしの多い日にひとりごとっぽく言うスケジュール
(本田鈴雨) とうに亡きひとの想ひに気づきたり 入道雲にひとりごといふ
086:恵(28〜53)
(ほきいぬ) 葉桜が僕に入れ知恵してきたら 君をさらって夏をはじめる
(イツキ)教えてもいない悪知恵身につけて少年たちが羽ばたく真夏
089:減(26〜50)
(絢森) 幻滅をしたならそうと言えばいい 磨り減ってゆく黒い秒針
(村本希理子) ゴムの木のやうに立ちをり減るたびに満たされるみづ窓辺に湛へて