題詠100首選歌集(その46)

 お盆も過ぎた。昨日は季節外れの涼しさで、夜タバコを買いに出かけたら(禁煙は目下挫折しています)、うすら寒いくらいの陽気だった。今日は本来の季節に戻って、結構暑い日差しが照りつけている。

 

       選歌集・その46          


014:泉(214〜239)
(近藤かすみ) ゆふくれて螢とびかふ貴船和泉式部のすゑもをるらむ
(内田かおり) 泣かぬ子の小さき瞳の影深く泉のありて我はたじろぐ
(久野はすみ) 主計(かずえ)町くらがり坂の泉には母の鏡と花を沈めん
(あいっち)はつなつの路面電車はわれを乗せ道後温泉前までゆけり
028:供(158〜182)
(わたつみいさな。) この胸に子供のようにうずくまる君は幾つの嘘をついたの
(こすぎ) お供には彼のお気に入りの傘さしてただ土手をいく海に向かって
(近藤かすみ)子供らの眠りしのちの灯の下にやうやう開く『ノルウェイの森
(本田あや)腕を組む 子供時代のアルバムを見たがる女になりたくなくて
(たかし)睡蓮の花がパチンと咲いた朝昔の恋を自供している
029:杖(157〜181)
(やすまる)他所様の花を手折って髪に挿しまた杖をつきそろりと歩む
(藤野唯) 松葉杖ついてたユニフォーム姿の君さえまぶしかった夏、30度
(近藤かすみ)日もすがら右手にマウス操りて余る左手頬杖をつく
035:過去(133〜157)
(暮夜 宴)しあわせを過去完了で語り終えショートホープで雲を描いた
(あおゆき) ようやくに近過去習うイタリア語過去もいろいろ種類あるらし
(やすまる)繰りかえし書き換えのきく過去として朝のコーヒーカップにそそぐ
(市川周) 過去といふ磔刑(たっけい) 卒業アルバムの中でレーザー・ラモンな私
(近藤かすみ) 八月は過去からの声が聞こえくる祖母の好みしポンポンダリア
(わたつみいさな。)細波の隙間に捨てた過去形の君に偶然すれ違う夏
054:笛(78〜103)
(佐原みつる) 旅という時間を持て余して座るベンチを遠く渡る笛の音
(勺 禰子) 野仏に篠笛ひとつ供へられし故に鞍馬の夏を忘れず。
(斉藤そよ) 口笛を吹きつつゆけば原っぱに宵待草が灯る黄昏
(史之春風) ここに在ることを誰かが気付かぬかそっとそうっと草笛を吹く
(大辻隆弘)葦笛のうへを滑らふ唇よ、寂しい遠い春を奏でよ
(志保) 口笛を 吹けば悲しき 夕暮れの 夏の終わりは 切ないほどに
057:パジャマ(77〜102)
(千歳) 今夜だけは学生時代に舞い戻る 25歳のパジャマ・パーティー
(斉藤そよ) 書を捨ててパジャマになるね もう森は夏の帳が降りてしまった
(橘 みちよ)洗い立てのパジャマにつつむうつし身を子を育みし日も遠くなり
(五十嵐きよみ) 風を受け屈託もなく揺れている並べて干した二人のパジャマ
(暮夜 宴)突然の雨に追われるようにして君のパジャマにすっぽり埋まる
(わたつみいさな。)満天のあらぬ期待を胸に秘めパジャマの中に広がる宇宙
067:葱(52〜77)
(ほたる) 焦らされたレベルで変わる玉葱の炒め加減を耳打ちされる
(間遠 浪)葱だけが知ってる葱の昼下り家禽は影に足を沈めて
(寺田ゆたか) やはらかな葱の酢味噌が好きといふをみなの指の細く白かり
068:踊(55〜79)
(小早川忠義) なにもなき夜はソファーに身を沈め行き場失くせし足を踊らす
(岩井聡) 踊り場の窓なら晴れたままなのに何を咎めて蜂の黄と黒
(寺田ゆたか) 靄のなか踊りの列が消えてゆく風の盆終ふる夜明けの坂に
(わたつみいさな。) ふるさとの私に逢いたくなる時刻踊り子の靴に履き替えてみる
087:天使(27〜52)
(七十路淑美)子は天使子は鎹(かすがい)と言われしは古き思想か赤ちゃんポスト
(たちつぼすみれ) 本心を映す鏡があったなら今日のわたしは天使か悪魔か 
(FOXY)この国に天子は坐(ま)せど天使は居ず 冬は粉雪降るばかりなり
ruru)さわさわと木の葉のように音を立て 天使のようにあなたは眠る
090:メダル(26〜50)
(酒井景二郎)厚紙で作つたメダルもどきでも秋の陽射しをきつちり受ける
(天国ななお) 金メダルみたいな夕日は三時間前に沈んだ あしたは晴れだ